戦場を目の当たりにし彷徨っていた彼は、タルロムという男に目をつけられ主従関係を教えこまれる。
その一団のなかには、ライナと同じ年齢くらいの少年少女もいた。生きるために、死んだ者から使える道具をあさる彼ら。それは仕方の無いことか……
ネルファ皇国 宿屋
「イリスちゃーんパァーンチ!」
来る度ライナに殴りかかってくるイリス。それに慣れたライナは、彼女の腕を軽く掴む。
野獣君に触られショックを受けたイリスを、ライナは安心させようとする。
「俺に触っただけで妊娠するだのフェリスに吹き込まれてるだろ? んなことあるわけねぇから、安心しろって」
そんなところで、背後からフェリスが剣を突きつけてくる。
「うん。私の妹の腕を掴んで」
「幼児誘拐やら襲うやら、妊娠させるなんて気は当たり前だがねぇぞ」
それはともかく、イリスは大好きなお姉様のもとに駆け付ける。
フェリスはそんなイリスの首の紐を掴んで軽く扱う。
もちろん、首吊りの状態になるため、イリスは意識を失ってしまう。
「何か問題があるのか? 私は可愛い妹を寝かしつけただけだが」
一歩間違えば永眠しちゃいますw
イリスが寝ている間に、フェリスは差し入れのウィニットだんご店のだんごに手をつける。
箱からだんごを取り出し、さっさと箱を捨ててしまう。そこに大事な手紙が貼り付いているとも知らず……
ローランド城
「イリスは無事に着いた頃か。俺の伝言が間に合えばいいが……」
無事に復活したイリスに、何の用で来たのかをライナは問う。
手紙を届けに来たことを思い出したイリスはカバンの中にあるはずのそれを探るが見つからず。とことで、ライナはシオンが話していたことを訊いてみることに。
「竜が突然消えたーとか言ってた!」
その言葉からライナとフェリスが思い出すのは、勇者の剣が大地に突き刺さった際に現れた竜のこと。
「その原因を調べに行けと、そういうことだな」
「えーと、えーと……他にも何か大事なこと言ってた気がするんだけど…」
ともかく、行けばわかる。そう考えたフェリスは、これから調査に行くことを伝え、イリスに伝言を頼む。
とことで早速、宿屋を出ていく。
ゴミ処理をしようとしていた宿屋のおばちゃんは、そこにあった手紙に気付き中を読んでみることに。
『先日、お前たちから報告があった、竜が地面から生えたという事件だが…あの森の周辺の住民が、何者かに皆殺しにされ、竜が消えたらしい。この遺物については放棄だ。絶対にもう、あの森には近づくな!』
ネルファ皇国 森林
シオンからの手紙の内容がまったく逆のものであったことを知らぬライナとフェリスは、再びあの森を訪れていた。
「ここでお茶にしたら風流かもな」
確かにいい案ではある。しかし、それは本来ならばというとこであった。
滝の上から人の死体が落ちてきて、今はとてもじゃないが風流と呼べるものではなかった。周りを見てみると、木には何人かの人の死体があったとことで、二人は原因を調べるため崖の上で様子を見てみることに。すると、その眼下に広がる光景は凄惨なものだった。
荒れた大地。その枯木に幾人もの死体が引っかかっていた。そのどれもが血を流しておらず、不気味なところ。
その荒野の中に、二人の人物が佇んでいた。
「おい、そこの二人!」
とことで声をかけたその相手は、先日会ったオルラ兄妹であった。
噂の竜を見に来たという二人も、この惨状には疑問を持っている様子。それに同意するライナはオルラ兄妹に近付こうとするも、それをフェリスが止める。
「どういうことか、説明してもらおうか」
フェリスが放ったその言葉は、オルラ兄妹に向けられたもの。何故なら、スィは勇者の剣を所持していたのだから。
「あらら。やはり気付いちゃいましたか」
「貴様らが殺したのか?」
「あの砦を訪れた僕たちの目的は、あなた方と同じ。そう言えばわかりますか?」
オルラ兄妹も、狙っていたのは勇者の遺物だったとこと。
「だから俺らを泳がせて、遺物を見つけさせた。……ということか」
オルラ兄妹としては思った通りに事が運んだ。そして放置された遺物を拾得したというわけ。
「ふざけんな」
オルラ兄妹は、遺物の存在に気付く人間が増えないように、竜を見た人物を口封じに殺したとこと。
「未知の力を独占するのは自分たちだけでいい。ですからあなた方も……死んでもらいます」
オルラ兄妹は何者で、何が目的で勇者の遺物を集めているのか。それを訊いたフェリスだが、オルラ兄妹の所属している国は既に知っていると言い、ライナに目配せする。
それが戦闘開始の合図。
「我・契約文を捧げ・大地に眠る悪意の精獣を宿す」
身体能力を上げたライナは、スィと戦う。
「西、無、陣、陽の――」
「西、無、陣、陽の――」
ライナがアルファ・スティグマ保持者だと知ったスィはすぐさま魔法を止める。しかし……
「向きから光輝を生み出す!」
途中で止めても魔法を盗むことはできる。
それを知ったスィは、クゥの力を借りてその攻撃を防ぐ。
クゥと戦うのはフェリス。
しかし、その圧倒的な力を受け、フェリスは吹っ飛ばされてしまう。
ライナは魔法で向上している身体能力を駆使して、なんとか体を張ってフェリスを受け止める。
「おい。いくら私の美貌に目がくらんだからといって、この状況で襲いかかるのはどうかと思うぞ」
同意。
「お前ってば、何でそんなに余裕あんの?」
「私はいつでも余裕だぞ」
「それってどれぐらい?」
「お前が助けてくれなければ、今の攻撃で死んでいたくらいの余裕だ」
だいたい余裕の度合いはわかりましたね。
クゥの持つ鎌。それがヤバいことを知ったライナとフェリス。
その鎌は持ち主の身体能力をとんでもなく上げるだけでなく、氷を発生させる能力も持っている。それに対抗するため、ライナとフェリスは力を合わせることに。
「俺が炎の魔法でサポートして隙を作って、お前があの鎌を止める。やれそうかぃ?」
「やるしかないだろ」
二人の相談が終わったことを察したスィは、嬉しそうに言う。
「せっかくのアルファ・スティグマ。それはなかなか貴重なものですからね。ちゃーんと結晶化して奪わせていただきます」
「結晶?」
「あれ。アルファ・スティグマ保持者だというのに、知らないのですか?」
「知らないから訊いてんだろうが!」
ライナよりもアルファ・スティグマのことを知っているスィ。それに対して、ライナは何も知らない。
「まあ、ここにあったルール・フラグメすら放置しているような方々ですからね」
忘却欠片。
それこそが勇者の遺物の一般的な呼び方。
そして、ライナ達が放置していった遺物の正しい使い方をスィは示す。
スィは自分の左腕に勇者の剣を刺すと、その腕は禍々しい竜へと変貌。
そしてそれがライナとフェリスに向けて炎を吐く。
間一髪でかわしたものの、枯木を焼く圧倒的な火力。
勇者の剣改めドルエリの剣鱗。使用者の意思で攻撃対象を焼きつくすことができるのが、その武器の本質。
「さて、そろそろ始めましょうか。遺物の力…存分に味あわせてあげますよ!」
続いて、クゥが鎌を振るう。
その一振りで、燃えていた枯木は一瞬で凍りついてしまう。
「求めるは雷鳴>>>・稲光!」
ライナはすぐさま反撃に転じるもその攻撃はまた別の勇者の遺物によってかき消されてしまう。
「クゥのアイルクローノの鎌。ドルエリの剣鱗。そしてこの、エレミーオの櫛。今お見せした通り、魔法を無効化する神の力が宿っています」
遺物が三つ。その力を目の当たりにし、フェリスは撤退を決める。
しかし、スィたちがそれを簡単に許すはずもない。
「共鳴しろ!」
スィが放った結晶から、不思議な力が放たれる。
それに反応したライナのアルファ・スティグマから、再び声が聞こえてくる。
『お前はそれを望んでいる。全てが消えることを望んでいる』
苦しむライナ。
それは、スィがアルファ・スティグマの力を覚醒させようとしたために起こったこと。
かつての惨劇を思い出し、ライナはアルファ・スティグマの支配から必死に抗おうとする。
しかし、力は及ばない。ライナはこの場から離れるようフェリスに命じ、化け物と化す自分を見ないよう頼む。
『人が死ぬ。しかし全てがどうでもいい。さあ、終わらせよう』
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ライナの抗いも及ばず、アルファ・スティグマの力は覚醒してしまう。
「あとは暴走して破壊を撒きちらすだけだ。まあその前に、僕らが殺して結晶を抉り取るけど」
暴走したライナは、辺りにその力を撒きちらす。
それさえもエレミーオの櫛で無効化するスィ。余裕なところであったが、アルファ・スティグマはその存在を解析し解除する。
「消えろ虫けら」
するとエレミーオの櫛は焼失し、それをかざしていたスィの右手も、その先から灰となって消えていく。
なんと恐ろしき光景か。
スィは咄嗟に左腕の竜で右腕を噛み切り、焼くことでその進行を止める。
冷めた表情ながらもスィのことを心配するクゥ。
それは鎌の能力の一種か、どちらにせよ、その冷たさがたまらない。
「何なんだこいつ。ただのアルファ・スティグマ保持者じゃないのか!」
ライナのアルファ・スティグマにとって、エレミーオの櫛は相手にならない。
「消えろ。消えろ、消えろ! 全て無だ。無に帰せ!」
ライナのアルファ・スティグマの異常さを知ったスィは、クゥを連れてすぐさま戦線を離脱する。
「ライナ!」
激しい爆風の中、フェリスはライナの名を呼ぶ。しかし、その声は届かない。
アルファ・スティグマは何も生み出さない。恵まない。救わない。
「ただ消すだけ。真っ白に!」
ライナの過去。
拾われたライナの傍には、同年代の男女がいた。
クイールとデール。その二人と笑い合っていたライナだが、村民がやっている死体漁りを咎められ、何人かの村人たちは殺されてしまう。
クイールも相手に捕まったとことで、デールが果敢に立ち向かうが……
「求めるは焼原>>>・紅蓮!」
生きたままにその身を焼かれるという過酷な死。
友人のその姿を目の当たりにしたライナは、アルファ・スティグマの力を解放する。
「求めるは焼原>>>・紅蓮!」
アルファ・スティグマ保持者。
その事実は敵を撤退させることに成功したが、同時に友をも失わせた。
化け物扱いをされたライナは――――
力を暴走させたライナは、微かに残る意識の中で、自分のことを思い出す。
「俺は……化け物なんだ――――!」
それは悲しい事実……
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