「え?」
「めんま、思い出したの。 じんたんのおばさんと、お約束したこと」
「――ただね。 一つだけ、仁太は泣かないの」
塔子さんはそのことをめんまに話す。
「生まれ変わりは楽しみだけど、それだけが気がかりで…」
林檎を切る手を止め、外を見つめる。
「いっぱい我慢させちゃって……。ホントはもっと笑ったり、怒ったり…、泣いたり…してほしかったな」
「わかった! めんま、約束する! じんたん、絶対泣かす!」
ありがとう、めんま。
「じゃあ、お願いしちゃおうかな」
「うん!」
だけど、ちょっぴり不器用なめんまはどうすればいいのかわからなかった。
だから、皆にもお願いしようと思って、お電話して集めた。
『めんまが……ここに戻ってきてまで……叶えたかった願いは……』
あの日、結局はうまくいかなかった。
「じんたんに内緒にしてた……バチが当たったのかな…?」
「バチなんかじゃねぇよ! 俺は行くんだよ。内緒とか関係ねぇだろ。 いつだって……何だって行くんだよ。あの場所に!」
じんたんは再び涙を流す。
それは嬉しいこと。
「でもね。 めんまホントは、じんたんの笑った顔が好き…」
じんたんの頬に触れていためんまの手が、優しくも力なく下がっていく。
「そろそろ……バイバイの時間かな…?」
まだだ。
まだダメなんだ。
じんたんだけじゃダメなんだ。
じんたんはめんまを背中に背負う。
「俺、会いたかった。 ずっとお前に会いたかった! お前の名前呼びたかった! お前に謝りたかった…。 好きだって言いたかった。 でも! みんな同じだった。 みんなお前が好きだった! みんなお前に会いたかった! みんながお前を…俺たちを待ってるんだ! あの……俺たちの場所で!」
じんたんは走る。
一刻も早く、一秒でも長く、皆と一緒に過ごせるようにと。
『俺、お前とずっと……!』
『ずっと、じんたんとこうしてたいって、思うくらい……』
じんたんは皆の待つ秘密基地へと駆けこんでくる。
そこでめんまはじんたんの背中から地面に降り立つ。
「めんま…? めんま! めんま!!」
じんたんも、めんまの姿を確認できなくなっていた。
何度もめんまのことを呼ぶ。
「か……かくれんぼだよ?」
めんまの声は聞こえる。
だけど、その姿は……
「めんまー!!」
じんたんはめんまの名を呼び外に駆けだし、ゆきあつたちもそれを追って後に続く。
一人秘密基地に残っためんまはまだだと言う。
「まだ、ちゃんと、お別れしなきゃ……」
外で懸命になってめんまを探す皆に対し、
「まーだだよー」
もう自由に動かすことのできない手を駆使して、めんまも懸命に筆を進める。
「もう……少しだけ……」
もう夜が明けて明るくなってきている。
物凄く懸命にめんまを探しているものの、未だめんまは見つからない。
「やっぱり……もうめんまは……」
信じたくない。
でもそう判断せざるをえないのか。
このままでは超平和バスターズの誰も救われないというのに……
そんなところで、
「何、あれ……?」
あなるは置き手紙を発見する。
それは日記を使ったものであり、歪んでいながらもそれは確かにめんまの字であった。
つるこへ。
やさしいつるこがだいすきです。
「めん、ま……」
ゆきあつへ。
がんばりやさんのゆきあつがだいすきです。
「っ…………!」
ぽっぽへ。
おもしろいぽっぽがだいすきです。
「うあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
あなるへ。
しっかりもののあなるがだいすきです。
「…………っ!」
じんたんだいすきです。
じんたんへのだいすきは、じんたんのおよめさんになりたいっていうそういうだいすきです。
「…………!」
皆一様に声にもならない思いを抱く。
『間に…合った。 今度はちゃんと……お別れ…できたよ。 もう……』
さよならの言える別れは幸せ。
だけど……
「何だよこれ…。何なんだよめんま……! かくれんぼなんだろ? だったら……お前見つけなきゃ、終われねぇだろぉッ!!」
それが本当の終わり。
だからじんたんはそのルールに則って叫ぶ。
「もーいーかーい!!」
それに従い、皆も……
「「「「「もーいーかーい!」」」」」
それが探す者の言葉であり、隠れたものはこう言わなければならない。
「もーいーよー!」
その声は必ず探している者に届く。
だから今この時だって、めんまの声は皆に届く――!
「めんま…!」
あなるの向いた先。
そこに確かにめんまがいて、皆は彼女を見つけることができた。
めんま……
「こういう時は、お名前言うのと違うよ」
そう。
見つけたら、ちゃんと言わなければならない。
「それで、ちゃんと、おしまいでしょ?」
でもね。
本当に幸せになるために。
「手紙、読んだぞ! 俺も大っ好きだぜ、めんま!!」
「私も、大好きよ!」
「めんま大好き!!」
「俺ももちろん大好きだー!!」
お別れはどちらか片方が言うものではない。
両者がそれを言えてこそ、初めて“さよならの言える別れは幸せ”だと言えるのだ。
な、じんたん。
「……願い、叶えてくれてありがとな。 大好きだ、めんま」
『あー! じんたんまためんま泣かした!』
『じんたん』
『コラじんたん!』
『えー!?』
『泣ーかしたー泣ーかしたー! せーんせーに言ってやろー!』
『ぽっぽ! てめぇ裏切ったな!?』
そんな楽しい光景。
あの夏の日の思い出が確かに甦る。
「めんまね! もっと…みんなと一緒にいたい…! 遊びたいよぉ…。だから…生まれ変わりする…。みんなと…っ、一緒…なるの…っ。 だから! じんたん…泣いたよ…。お別れしたよ…っ。 だから!」
「せーのーっ!!」
「「「「「めんま! 見ぃーつけた!!」」」」」
「見つかっちゃっ――た――――」
『めんまは……やっぱり笑った』
あの夏の日の思い出と、同じように。
俺たちは、大人になっていく
どんどん通り過ぎる季節に、道端に咲く花も、移り変わっていく
あの季節に咲いた花は、なんて名前だったんだろう?
小さく揺れて 触れればチクリと痛くて 鼻を近づければ 僅かに青い 日向の薫りがした
次第に、あの薫りは薄れていく
俺たちは、大人になっていく
だけど……あの花は……きっとどこかに咲き続けてる
そうだ。俺たちは、いつまでも…… あの花の願いを 叶え続けてく
超平和バスターズはずっとなかよし
私はもう知った。
めんまの名前を決して忘れない。
この記事へのコメント
あるるかん
つーか、じんたんもゆきあつも告白されたも同然なのに未だに無回答なのだろうか?まあめんまが消滅したあと、すぐにあの二人が色恋沙汰でどうこうは無さそうですよね。
十年近くめんまを恋慕ってたあの二人は異常なくらい一本気でしからね。
今までのこともあって泣けるかと思ったら、胸をつく思いを感じながらも涙を流せなかったのは残念でした。『CLANNAD』の二期、朋也と汐が和解して朋也が渚のことを思いだし、その時死を受け入れ涙するシーンは本当に泣いたんだけどなぁ。
私は藤林杏が好きなので、杏と学生生活を送りたいと夢見たものです。
本隆侍照久
ゆきあつのアレは趣味でやっていることではなくて、一種の心の傷のようなものですからね。やはりそれに触れるべきでないというのは、めんまに限らず皆もわかっているでしょう。それでもバラそうとしたつるこなどからは、彼女にも傷があったのだと感じられるところでした。
めんまとのこと、超平和バスターズのことに答えを出した後、彼らがどうなるのかは気になるところですね。でもそれはまた別の物語、とでもいうところでしょうか。知らぬが仏というわけではありませんが、想像補完がベストかなと感じます。
私は今回も号泣しました(´;ω;`)
一度ならず、記事作成の際にも泣きましたから、涙を拭きながら懸命でしたよ(つд∩)
『CLANNAD』は朋也と汐が本当の親子と言えるようになり、朋也が初めて渚の死を受け入れた回がやはりもっとも泣けましたね。多分、今回もそれと同じくらい泣いたと思います。
『CLANNAD』は自分の中で本当に特別な世界で、あのはなにもそれくらいのレベルを感じました。どちらの世界のどの人物も本当に魅力的で、その学生生活は羨ましく思えますね。
BDを買いたいのにそのお金がない自分が悲しい……orz
来年社会人になったらば必ず……!(´・ω・`)