いつか天魔の黒ウサギ 02話『900秒の放課後 <後篇>』 前半

――――9年前。

「大丈夫?」

ブランコに乗って軽く揺られている少女に、少年は訊く。

「私が見えるの?」

疑問で返された。
それも当たり前のはずのことを。

「ううん。何でもない」

だから少女はすぐに首を振る。

「何か、悲しいことあったの?」

少女の質問が少年にとって疑問なものだったように、少年の質問もまた少女にとって疑問が感じられるものだった。

「だって……その、泣いてるから」

それを指摘され、少女は初めて自分が泣いてるのだということに気付く。

「変なの」
「変じゃないもん!」
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かわいい。

「ごめん。怒った?」
「ううん。嬉しかった。ずっと独りぼっちだったから」
「君も独りなんだ」
「あんたも?」
「うん。なんか、みんなと仲良くなれなくて。 僕達一緒だね」
「一緒?」
「うん」
「じゃあ、あたしと一緒にいてくれるの?」
「うん。 友達になろうよ!」

そう言い、少年は少女に向けて笑顔で手を差し出してくる。
それに、少女も満面の笑みで応える。

「うん!」

大兎とヒメア。二人の物語は始まった。

……そしてある日、ヒメアは大兎に《毒》をかけた。

「愛してるわ、大兎」

その言葉に改めて大兎が返そうとしたその時、大兎の首が飛んだ。
幸いにも大兎にはもう《毒》がかかっている。ヒメアが彼の首を元の位置に乗せてやることで、それは数秒ののちに繋がる。さすがに大兎も生きていることに驚きだ。

「あなたが噂のサイトヒメア?」

真っ二つになった遊具の片割れ、その上にとある少年が立っていた。

「はじめまして。僕は日向」
「教会からの遣い? ちょっともう勘弁してよね! 私はもう、バールスクラの仲間じゃないのよ! あいつの封印を解こうなんて思ってない。だから……」
「教会? 何です、それ?」

教会に対して、何それおいしいものとばかりに感じる少年・日向は、本当にそれとは関係がないのだろう。
間もなく、大きな化物が姿を現す。

「なーんだそっちか。あんた、いっちゃった魔神信仰の類なのね」

ヒメアにとっては目の前に現れている化物も含め今の状況は何も問題のないもの。
だからあっさりその化物を消してしまうことだって容易にできた。
しかし、日向の動きは想定外だった。一瞬にしてヒメアの目の前に場所を移した彼は、ヒメアのか弱げな首を締めあげる。

「やめろー!」

大兎は彼なりに必死。ヒメアを助けようとするものの、そんな彼の方に顔を向けることもなく、日向は右手を向けるのみ。そこから光の弾が射出され、大兎は苦しむ間もなく一瞬にして死ぬ。これが2回目。
再生してすぐに立ち上がる大兎は、それでもヒメアを助けようと駆け寄り……その度に殺される。

殺しても生き返る。そんな大兎にヒメアがどんな《毒》をかけたのか、日向は少し興味を持っていた。
でもそれは本当に少し。

「お前なんかに教えるか」
そう言われたらまあいいやと感じられる程度のもの。

大兎は6回死んだ。
そのことに気付いたヒメアは時計を確認する。
6時10分。まだ最初に死んでから数分しか経っていない。

「やめて……お願い…!」
「あれ? 彼何度でも生き返るんじゃないんですか? それとも回数制限があるのかな? つまり彼は、7回目には復活しないで正解か」

大兎のことを思えばこそ、もう隠すわけにはいかない。

「その術は、…15分でリセットされる…」
「そこから再び6回死ねるわけだ」
「それが大兎にかけた、私の呪い……」

「こいつに惚れたな?」
恐らく、その通りだろう。

「惚れた相手が死なないように、死なずにずっと傍にいるように、愚かな力を分け与えた」
「そう、なの…ヒメア?」
「もう…勘弁してよ。あんたの言うとおりにするから、…大兎の前でこれ以上恥かかせないでよ…」

日向の狙いはサイトヒメア。彼女が素直についてきてくれさえすればあとはどうでもいいのだから、大兎に対してはそのための最善の処置を施すのみ。

「面倒だから、彼の記憶を消すよ」

ヒメアにとっても、今の状況ではそれが最善。
だから彼女は静かに頷く。

そして……
大兎がヒメアのことを忘れたくないと願っても、それに関係なく記憶消去の魔術が発動される。

「僕は絶対に忘れないぞ…! 絶対に、…ヒメアを助けに行く!」
それは嬉しくも悲しい約束。

「絶対に僕は…、僕は……ヒメアのことを……」
「忘れるよ。 ……あっさり」

そして大兎は、ヒメアに関する全てのことを忘れた――――




あれから9年。
ヒメアとようやく再会できたというのに、彼女はいきなり背後から刺され……
大兎はヒメアを刺した男に蹴りを繰り出し、それにより男をヒメアから離れさせる。

「日向! てめぇ!」

相手は自分が思い出した記憶の中にいる男。しかし……

「日向? 俺をあのくだらないクズと一緒にするな」

目の前にいるのは日向ではない。生徒会長の紅月光であるのだと、大兎もすぐに気付く。
とにかく、ヒメアは無事。刺された傷もすぐに塞がったようで何よりなところだ。

「どうしてヒメアに手を出す!?」
「その女が日向に追われているからだ」

意味がわからぬ。
しかし、月光は大兎に理解してもらうつもりもなかった。
ただ必要なのは、サイトヒメアという存在のみ。
それに抵抗しようとする大兎は、剣を持つ月光に果敢にも殴りかかっていく。しかし、さすがに無理が過ぎ、あっさりと左腕を斬り落とされてしまう。

大兎の反撃。
その左腕を使って月光を叩く……いや、殴る。そののちにもとの位置へ戻して再生させる。

「そうか。それが《最古の魔術師》-ヴァンパイア-に取り憑かれた哀れな《犠者》の力か」

そんなところで、コーラを買ってき終えた美雷が戻ってくる。
遅い。が、彼女もいろいろと驚きのものを見ていたのだから、仕方なくもあったか。

ゴクゴク飲んで一休み。
そののち、美雷は月光が対峙している相手を見てビックリ。

「いた! 不死身くん!」
「そいつらは敵だ。美雷、さっさと殺せ」

とは言え、大兎もヒメアも見た目はボロボロ。
自分たちの方が敵みたいだと美雷は感じる。

「まあ、ゲッコーはいつだって悪者だけど」
「違う。俺は天才だ」
うわぁ……(´・ω・`)

「俺に従え。お前は俺のものだろうが」

そう言い、日向は美雷の頭を掴む。
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これから彼がしようとしていることは、美雷にもなんとなく想像はつく。
かつて月光に己の力の7割を封じられた、その呪いの解呪法が実行されると。
でも唇である必要はない。月光は美雷のおでこに優しくキスをし、彼女にかかった呪いを解く。

「元気百倍! アンドゥのミライ!」

雷-インドラ-のアンドゥの血を引くというその力を取り戻し、美雷は稲妻を大兎の胸に突き刺す。
死んで、生き返る。そんな彼のことを知っている美雷はすぐに追撃の攻撃をすべく襲いかかってくる。

「静止-アルト-!」

二人の間に入ったのはヒメアだった。
彼女が描き出した大きな魔法陣の力により、未来はその動きを止める。

「使えない雑魚が」
そう言わんといて(´・ω・`)

これで形勢逆転。月光の性格を考えるにそう言い切れないかもと感じられるところであったが、彼は凶剣を目の前に捨てる。
それに一番驚くのが美雷。まさか自分のためにしてくれるだなんて……

「黙れ足手まとい。 お前のためじゃない。こいつらごときに必要ないからだ。お前はそのまま死ね」

彼の性格をもうなんとなくだがわかっている美雷。

「なんか、あたし今すごーく機嫌がいいからぁ、ちょっと本気出しちゃおっかなぁ!」

そう言い、美雷はビリビリパワーでヒメアの拘束術を撃ち破る。
そしてがおーっと、大兎を空中に放る。
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後半へ続く……




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