『私はいつ、心を決めたのだろう』
『もしもやり直せるんなら…そのチャンスが与えられたのなら』
『あの時、あの場所で、あの背中を見た瞬間から』
『自由にしてやりたい。こんなことであいつが囚われるのは間違ってる』
『ううん。そうじゃない。 …その向こうを知ってるから。もっと大切なものを見つけたから』
『『だから――――』』
水無月小学校には神童がいる。
そんな噂が流れたのは何年も前のこと。
確かにその少年は周りの者たちよりも多少頭の回転が速かった。その上真面目で勤勉であったため、大人たちは高らかに褒め称え大いに期待していた。
なのに――――
5年2組。
「やっぱり雄二はすごい」
放課後に二人で宿泊学習のしおりを作成している中、翔子はそう言う。
それもそのはず、雄二は先日の模試で中学生よりもいい成績をおさめ、一緒に受けた6年生の人達も悔しがっていたという。
雄二はまさに神童と呼ぶべき存在か。しかしながら、彼は社会の問題でミスり1位を逃したことを悔いていた。
『この頃の俺は、いつも上を目指していた』
霜月中学校の推薦は確実だと言われ、雄二もそれは自分にかかれば楽勝だと思っていた。他の奴には無理だと。
『しかし、その自意識は、周囲を見下す態度と表裏一体だった』
作業する翔子の手は止まっており、雄二はそれを動かすように言う。さっさと帰りたいから。
「でも、私は雄二とおしゃべりしたい」
「ダメだ。俺は帰りたい」
「おしゃべりしたい」
「ダメだ」
「……したい」
「ダメだ」
「……したい」
「ダメだ」
ふむぅ……(´・ω・`)
「あのね雄二。最近、私のおっぱい、おっきくなってきた」
(´・ω・`)
「お前は、いきなり何言いだすんだよ!」
「雄二が無視するから、男の子が興味ありそうな話題にしてみた」
き、興味なんかないよー(´・ω・`)
『いや、興味はあった』
そう言わないと同性専門だと思われかねないものね。両性アリなのに(´・ω・`)
ともかく、作業を続けよう。
「作業はする。でも雄二とおしゃべりしたい」
「友達としゃべればいいだろ」
「うん。だから今おしゃべりするの」
『翔子は、クラスから浮いた存在だった。家柄、成績、運動神経、そして優れた容姿。あらゆる面において、恵まれ過ぎていた』
だから彼女は一人ぼっちだった。
彼女の優れた特性が男子を遠ざけ、また小学生ならではの隔離連鎖を引き起こしていた。
女子は女子で翔子のことを妬み、彼女が独りぼっちになるのは自然の流れであった。
『そんな翔子が俺に懐いたのは、仕方ないことだったのかもしれない。俺は、誰に対しても常に等しく接していたから』
翔子が転校してきて2年。ようやく少しずつ話せる子も増えてきたという。
「だから最近は、前より学校楽しい」
学校が楽しい……ねぇ(´・ω・`)
「だって、家にいても誰も遊んでくれないし、話してくれないし、広すぎて寂しいし、学校の方が楽しい」
「贅沢な奴。家が広いなんて、俺には羨ましいだけだけどな」
「それなら今度、遊びに来る?」
「ヤダ。お前と遊ぶより、本読んでる方が100倍楽しいし」
「…いじわる」
「何とでも言え」
「…けちんぼ」
「それがどうした」
「…わからずや」
「それで結構」
「雄二は……雄二は私のことが好き」
(´・ω・`)
「だから照れちゃって遊びに来られない」
「お前、なんでそこまで俺を家に呼びたがるんだよ」
それは、翔子のおじい様がよくお嬢様学校の話をするからとのことだった。つまりはまた転校するという可能性が浮上しているからであった。
家では学校でいじめられてないかよく訊かれるとのことで、だから家族に友達を見せたいと思っていたのだ。
「私、転校したくない」
やっと雄二以外の友達もできたのだから。でもその者達を連れていくほどに仲良くもないから……
雄二は外の夕焼け空を見つめる。
「ま、俺には関係ないな」
『誰に対しても等しく接する。それは、誰に対しても等しく興味がなかったからだ』
それはある意味でボクも似ているのかもしれない。誰とも等しく話さなかったボクと……あれ、違う?(´・ω・`)
「雄二ひどい」
「ひどくない」
「ひどい」
「ひどくない」
「ひどい」
「ひどくない」
「……雄二。私のおっぱい、クラスで一番大きい」
(´・ω・`)
『それでも……孤独にあえぐ幼い少女が期待を寄せるには、充分だったのだろう』
帰り途。
雄二は6年の男子生徒と遭遇する。
雄二を待ち構えていた彼らの用件は雄二にもなんとなく察しがつき、だからこそ軽く溜息をついて雄二は彼らを無視して行こうとする。もちろん前に回りこまれ、彼らに調子に乗るなと言われる。
雄二は気付かれぬように軽く舌打ち。
「だから早く帰りたかったんだよ」
そう愚痴を呟きながらも、立ち塞がる男子生徒の用件を一応訊いてやる。
それに対してまずは文句を言う彼ら。ならばこちらから核心に迫るべきか。
「お前らさぁ、俺に模試で負けてから、毎日毎日待ち伏せしてるけどそんなに暇なわけ? それとも、友達いなくて寂しいとか?」
うわぁん、傷抉られたぁー(´;ω;`)
それはそれとして、6年の彼らはまず敬語を使うよう雄二に言う。しかし……
「敬語? お前らバカだろ。敬語ってのは敬う言葉って書くんだぞ。バカのお前らを、なんで敬わなくちゃいけないんだよ」
ごもっともで(´・ω・`)
上級生とはいえ、逆に言えば彼らは雄二よりも1年長く勉強して負けたのだ。
「お前らが俺に敬語使えよ」
さすがにイラッとした6年生は、ゆうじの胸倉を掴み今にも殴らんとする体勢に入る。
「おい、いいのか? 俺に何かあったらすぐに先生にバレるぞ。俺は、特別だからな」
そう言われては手も出せまい。
彼らは雄二から手を離す。
「わかったらどけよ。 二度と俺んとこに来るなよ」
雄二自身には手を出せない。が、まだ別の手がある。
下駄箱やロッカーを荒らしてやろうと考える6年生たちは、それで世の中の礼儀を教えてやろうと考えていた。世の中って言っても、小学校レベルのだけどね(´・ω・`)
「ただいまー」
雄二は帰宅する。
「お帰りなさい雄二。今日は遅かったわねぇ」
結婚して下さい(`・ω・´)
……じゃなくて、雄二は学級委員の仕事をしていたら遅くなったのだ。
「あらそうなの。てっきり、翔子ちゃんと遊んでるんだと思ってたわ」
いやいやぁ(´・ω・`)
「だってお友達でしょ?」
「違うね」
「もうそんなこと言って。あの子将来すごい美人さんになるわよ。その頃になって、まさかお母さんみたいな美人になるなんて、とか言っても遅いんだから」
既にハイレベルです(´・ω・`)
もちろんママさんも素敵ですとも(*´・ω・`*)
「俺、明日も遅くなるから」
用事はクラスのお仕事ではない。
「ちょっと上級生に教えなきゃいけないことがあってさ」
ふむ……(´・ω・`)
「ところで母さん。エプロンしてるけどまさか……!」
「今日は雄二の大好きな肉じゃがよ。今サツマイモの皮を」
「なんで肉じゃがなのにサツマイモなんだよ!」
「だってじゃがいもって荷崩れしちゃうんだもの。だから溶けないものを」
「荷崩れの前に肉じゃがの定義が崩れてるから!」
でもまだ食べられるだけマシなところか。誰かさんとは違って(´・ω・`)
「でね、お母さんお肉買ってくるの忘れちゃったから、お肉抜きの肉じゃがで」
「それじゃただのふかしイモじゃないか!」
肉じゃがの要素ゼロです(´・ω・`)
図書室。
『本人がダメなら持ち物。むしろ、それを見越しての挑発だった』
さすがは神童といったところか。
最低限大事なものは避難させてあり、6年生が手を出したところで教師を呼びに行こうと考えていた。
『この頃の俺は、他人より優れた自分を、ヒーローだと信じていた』
「あれ。そういえば今日は、翔子が付き纏ってこなかったな…」
その翔子は、教室にて一人で日直の日誌を書いていた。
【第11問】
次の文章を読んで後の問に答えなさい。
「定吉はどこに行ったんだ」
次平が尋ねると、太助は肩を竦めて答えた。
「お菊のところだよ。十年来の恋心を得意の和歌にして伝えてくるんだとさ」
それを聞いて次平が眉を顰める。
「恋の和歌ときたか。それなら結果は知れたようなものだな」
「違いない。あいつの歌は下手の( )だからな」
問①( )に正しい語句を入れて太字部分の慣用句を完成させ、その意味を答えなさい。
問②傍線部の〝結果〟とはどのような結果なのか。次平と太助が予想しているであろう結果を答えなさい。
姫路瑞希の答え
『問①下手の(横好き)
意味:下手であるにも関わらず、その物事にやたらと熱中していること
問②下手な和歌で失敗してしまって、定吉の想いは成就しないという結果』
教師のコメント
正解です。この文脈で他に当てはまる〝下手の――――〟で始まる慣用句としては、〝下手の真似好き〟というものもあります。どちらの慣用句であろうとも拙い技量を示すため、次平と太助の二人が予測する結果は失敗であることがわかります。
吉井明久の答え
『問①下手の(一念)
意味:へたくそでも一生懸命頑張ること
問②へたくそでも自分のために一生懸命歌う定吉の姿に、お菊はきっと心を動かされるに違いないという予想』
教師のコメント
決して正解とは言えませんが、先生はこの解答を好ましく思います。
下手の一念で頑張ってもらいたいね(´・ω・`)
後半へ続く……
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