水泳部はおでんを出店する。響は水泳部伝統のそれを管理する術を、今一度純一と七咲に確認する。
とことで、おでんは二人に任されることに。
そんなところで、森島先輩がつまみ食いという名の試食をおこなう。結果はというと……
「もう少し食べてみないとわからないかな」
「なるほど。もう少し食べてみたいと思わせる充分な出来だったってことね」
さすが、森島先輩と長い付き合いをしているだけのことはある。扱いに長けてらぁ。
響が森島先輩を強制連行したところで、創設祭実行委員長の絢辻さんより開会のあいさつが。
「本日は、輝日東高校創設祭にご来場いただき、誠にありがとうございます」
今年で57回のこの創設祭。
生徒主動のこの創設祭開始に向けて、ミスサンタコンテストへの出場を控える者たちや出店を控える者たち、皆一様に準備万端で絢辻さんの開会のあいさつに耳を傾ける。
「ここに第57回、創設祭の開催を宣言いたします!」
クリスマスの夜空に花火が咲く。
おでん屋も早速客で溢れ、大忙し。その中で二人は絶妙なコンビネーションで切り抜ける。
そこへ……
「おいおい。ずいぶん繁盛しているようじゃないか。輝日東の味を継承できているか、確認させてもらいに来たよ」
「輝日東の冬。日本の冬」
さすらいの茶道部と名乗るこの二人は、夕月琉璃子と飛羽愛歌。
琉璃子はまず、女子水泳部の屋台なのにどうして男子の純一が働いているのかに言及する。
「僕は手伝いで……」
その程度ならいいだろうと思うところだが、さすらいの茶道部にとってそれは甘い考え。
「男子生徒なんかに手伝わせるとは、伝統ある女子水泳部のおでん屋台も、地に堕ちたもんだねぇ」
「がっかりだ」
これは聞き捨てならない。
さすらいの茶道部二人に、七咲は対抗する。
「おでんの仕込みは私がやりました。味のことでしたら私にお願いします」
塚原先輩に習った。それを聞いたさすらいの茶道部は、とりあえず一つ味見をしてみることに。
水泳部伝統の味じゃないと納得しないと言う彼女。厳しいが故に、ここを乗り切れば自信に繋がるだろう。
愛歌の要求は一番下に沈んでいる昆布。琉璃子の要求はいい色になっている大根。
二人は要求したものをそれぞれ試食し、その結果は……
「う……う、う、美味しい~!」
うまいとくるかと思いきや、おいしいと言い直した琉璃子。それほどまでに、おでんは水泳部伝統の味として完成されていた。
「輝日東高校水泳部、伝統の味」
二人のお墨付きもあり、ギャラリーは大いに盛り上がる。
七咲のことを気に入ったさすらいの茶道部は、これから行く先々で宣伝してくれるという。厳しかったからこそ、二人が高評価したおでんの宣伝効果は大きいだろう。
おでんのいい匂いに誘われ、泥酔教師・高橋麻耶が現れる。
茶道部で出した甘酒で酔ったという高橋先生。去年も同じようになったために、さすらいの茶道部は飲ませないよう注意していたと言うが、ちょっと目を離した隙に梨穂子が味見させたという。
他の部の心配より、自分たちも部でもちゃんと指導をおこなわないとw
「いいじゃない。私だって人間よ。たまには飲んで暴れて乱れたくもなるわ……」
暴れるな、乱れるなw
焼酎のダシ割りを要求する高橋先生。まったく、厄介な客だ。
その処理は、絢辻さんお付きの生徒がおこなう。さすがは絢辻さんといったところか。純一たちは、お礼として絢辻さんにおでんをプレゼントする。
七咲と絢辻さんとで数秒視線を合わせたのち、絢辻さんはおでんを快く受け取る。
良かった良かった^^
この創設祭には、PC制御で動くガン○ム的な巨大な何かまである。実は物凄かったりするのだが、PC制御が効かず、ガ○ダムは動き出してしまう。
これマジすげぇよ……w
さすらいの茶道部は梨穂子のもとに戻る。
ミスサンタコンテストは恵子の出番がやってくる。
客寄せをする梅原は女生徒に逃げられてもめげずに次の女性客に呼びこみをする。
紗江はミスサンタコンテストから逃亡する。
高橋先生は泥酔のまま保健室のベッドで寝る……
皆それぞれの時を過ごす中、純一と七咲は二人で素敵におでん屋を営んでいた。
そんな中、あることに気付いた七咲は少しの間店をはずす。
彼女が向かった先には幼気なチルドレンがおり、二人におでんをプレゼント。七咲は優しいなぁ……^^
おでんは、商品分は完全に売り切ってしまう。
残るのはとっておいた純一と七咲の分のみ。それは後片付けが終わった後の楽しみとして片づけに臨もうとしたところで、
「それなら私たちがやるからいいわよ」
サンタコスの響、その他女子水泳部の面々が現れる。
完売できたご褒美として自由時間を与えられた純一と七咲は、人のいない場所を選んでゆっくりとおでんを食す。
「そういえばさ。この前、僕に時間があるか訊いたよね?」
それは七咲がおでん屋台の手伝いを誘った時のこと。もう遅い時間だというのに、誘ったその真相は……
「知りたいですか?」
知りたいです^^
純一は七咲についていき、ギリギリ最終のバスに乗り込む。
どこに行くかは内緒だと言うが……
美也と紗江はともに帰路につく。
結局コンテスト参加できなかった紗江。美也的には紗江がサンタの衣装を着たいと言っていたから参加させたようだが、それは勘違い。二人はそれを理解しているからこそ、仲違いなんかには繋がらない。
美也は今夜、紗江の家にお泊りしてささやかなクリスマスパーティーをおこなう。素敵な友情をこれからも育んでいってもらいたいものだ。
バスを降り、純一が七咲について行く先は明らかに山の中。目的地もわからぬまま薄暗いその中を歩くというのはなかなかに不気味なものだろう。
それでも、七咲を信頼しているからこそ、純一は彼女を信じて歩き続ける。
「もう少しですよ。頑張ってください」
そう言われたら頑張らざるをえないだろう。
こんなところに何があるのか……それを妄想した純一は、いくつかのパターンを考えてみる。
『あの、先輩……。私を好きにしてください』
七咲が水着で誘ってきたりだとか……
『もう、我慢できないんです……』
七咲がセクスィーに誘ってきたりだとか……
『先輩。もう逃げられませんよ。ここならいくら悲鳴をあげても無駄ですしね』
七咲が悪魔的な笑みを浮かべ死へ誘ってきたりだとか……
そんな妄想を繰り広げていたところで、目的地の匂いが漂ってくる。
硫黄の匂いがするその方へと向かってみると……
「……温泉?」
そこには自然の秘湯が待っていた。
ここは七咲のおじさんの持ち山だという。隠れた名湯もいいとこだろう。
純一は自分の分の道具を受け取る。七咲は準備をしてくるとことで、純一は先に湯につかって待つことに。
「先輩?」
「は、はい!」
声裏返ってるってw
まあ割とオープンな姿、それもひと気のない場所で、七咲が温泉に入るような格好でやってきてるのだろうから、緊張するのは無理ないだろう。
「見ないようにこっち向いてる」
気を遣う純一だが……
「見てもいいですよ」
そう言われれば見ないわけにはいかない。いや、逆に変態紳士としては見ない方が失礼にあたる。
そう考えて鼻の下を伸ばしたであろう純一だが、
「下に水着着てますから」
残念ながら期待通りにはならず。
「私はどちらでも良かったんですけど、先輩のことを考えたら、水着を着た方が正解かと」
その通りだろう。
多少気になることはあるが、まあそれは置いておこう。
二人は互いに背中を向け合うように温泉に入りながら、今日のことを振り返る。
無事におでんを売り切ったことはいい思い出になっただろう。
「私、先輩と初めて会った頃には、一緒におでんを売るとは思ってもみませんでした」
それほどの仲になるとは想像もつかなかっただろう。
「それに、こうして一緒に温泉に入るなんて……」
決して長いとは言えない、二人で過ごした時。
それでも、今の七咲には純一に聞いてもらいたいことがあった。
「私の……気持ち、です……」
七咲は意を決してそれを伝える。
「私、先輩が…………好きです」
改めて。
「好きなんです」
もう隠しきれないほどに溢れたその想いを打ち明けた七咲。それには、大きな不安も伴ったであろう。
だから、純一もすぐに自分の気持ちを伝える。
「嬉しいよ」
「え?」
「僕も……七咲が好きだから」
純一のその言葉を聞いた七咲は温泉の中へと消えていってしまう。
彼女が戻ってくることはもう二度と……なんてことはなく、心配した純一の隙をついて、七咲は純一に抱きつく。
二人のタオルがひらひらり。
「な、七咲!? 確か水着を着てたんじゃ!?」
やはりと言うべきか、七咲は水着を着ていなかった。
競泳水着の跡が、これはもうたまりませんな(*´Д`)
恥ずかしかったから嘘をついていた七咲。
「けど、先輩にコクハクしたことを考えたら、些細なことでした」
純一にとってはとんでもない大事件だろう。それでも七咲にとってはもはや無問題。
「私、先輩のことが大好きですから」
森の動物に見守られながら、二人は素敵な時を過ごす――――
夕方。
純一は逢に起こされる。
「起きて下さい。そのまま寝ると風邪をひきますよ?」
「あと少しだけ。逢の膝枕があったかくて気持ちいいから」
そこで風邪をひくなら本望だろう。
「もし先輩が風邪をひいても、私が看病してあげますからね」
「ありがとう。逢」
「構いませんよ。先輩のためなら――――」
~fin~
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