伝説の勇者の伝説 #016『微笑まない女神』前半

「あなたを、愛している……?」

書物に載っていた愛という言葉。それを知らないフェリスは、その意味について兄のルシルに訊く。

「私がフェリス、君を思う気持ちは、きっと愛だと思うよ」

ダウト。
ルシルが本気で言っているのかどうかは定かではないが、むしろ嘘であってほしいと思う。そうでなければフェリスが愛を知らないはずはないのだから。

「父様や母様、イリスだって、君を愛していると思うよ」
ルシルの言う“愛”という言葉がねじ曲がったものに聞こえる……

「訓練が辛いのかい?」

フェリスは静かに首を振る。
包帯だらけのフェリスだが、彼女に見える世界にとって訓練は当たり前のものなのだろう。

「そうか。フェリスは偉いな」
「私は誉められているのか?」
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それすらもわからない。

「いや、君は愛されているんだよ」

ルシルの言葉に、フェリスは喜びを感じる。
こうしてフェリスやイリスといった、世間の人々とは違ったルシル家の人間ができあがっていくのか。
ならば彼女が見せた涙の持つ意味は、想像以上に大きかったということか……




【4年前】
稽古中、フェリスは相手の攻撃を腹に受けて倒れる。

「あなたにはいつもがっかりさせられますね。私たちの血を継いでいて、何故この程度の剣すら受け止められないのでしょう」
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フェリスの母は、実の娘を見下すようにしてそう言う。

「今…、立ちます……」

フェリスは手にした木刀を杖代わりにし、それにすがるようにして必死に立ち上がろうとする。

「なんて醜い。私恥ずかしいわ。あなたのような出来損ないを生んでしまったなんて」

その言葉には愛がない。
ただ貶めているだけ。

「私はこれでも、期待しているのだがな」

フェリスの父はフェリス母ほど厳しい言葉は浴びせない。しかし……

「少なくともフェリスには、エリス家始まって以来の天才と謳われた、私たち兄妹の血が流れている」

兄妹。
夫婦であるのも事実であり、兄妹であるというのもまた事実。
初めて知ったその事実に、フェリスも少なからず驚いていた。

「エリス家の中に、さらにもう一度、父様の血が加われば、確かに可能性はありますわね」

フェリス母はフェリスの服を掴む。

「出来損ないならせめて、エリス家のために優秀な子をなしなさい」

そう言ってフェリスの服を剥ぎ、身動きとれないように両手を抑えつける。
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父も母の行動に従い、フェリスに迫る。

フェリスは嫌であっただろう。しかし、自分がどうしようもない出来損ないだからこそ招いた結果でもある。
父と母のその行動を受け入れるしか、彼女に選択の余地はなかっただろう。
しかし、それは途中で遮られることとなる。

次の瞬間、母は床に倒れる。その身体からは血が流れ出ていた。

「私の可愛い妹を、お前らの腐った手で汚すんじゃない」

そこにはルシルが立っていた。

「なるほど。お前も出来損ないというわけか」

フェリスとは違った意味で、エリス家の人間として相応しくない。父はそう判断したのだろう。

「エリス家に相応しくない者は、生きている必要がない」

父とルシルの戦闘が始まる。

フェリスの目ではとても追えないような速度で繰り広げられる戦闘。それは、一瞬にして決着がつく。
床に倒れたのは父だった。

「この程度の力で、天才を自負なさっていたのですか?」

圧倒。
それはフェリス父が弱かったのではない。ルシルが強すぎたための結果であった。

ルシルは倒れた父の頭を掴む。

「始まりは破壊。そして再生。破壊、再生。破壊、再生……」
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ルシルは壊れたように笑い、父親の頭部を破壊する。

「さあ、もう怖くないよ。全て終わったんだ」

返り血に染まった身体と顔をフェリスの方に向け、ルシルはそう言う。
フェリスは父母の存在以上に、ルシルを怖れていた。

「これからは私が、君を守ってあげる」

それでも、フェリスが従うべき相手はもういなかったのだから……――――




「フェリスは今日も、あの男のところか」


ローランド 宿屋
「寝ている場合か!」

フェリスがカーテンを開け、眩しい日差しを部屋に差し込ませる。
ライナの快適な睡眠はもちろん阻害されてしまう。

「緊急事態だ。2秒で準備を済ませろ」

それは命令であって、頼みではない。2秒数えたところで、フェリスはライナを問答無用に連れて行こうとする。
それにライナは必死に抵抗する。

「ローランドを離れている間に、だんごの勢力図が塗り替えられたぞ!」

フェリスにとっては紛う事なき緊急事態。ライナが無理矢理起こされるのは仕方ないだろう。

「今ローランドでは、新興だんご店の出店ラッシュだ! 未知のだんごが、私たちを待っている! どうだ、心躍るだろ?」

フェリスの言い分は理解したものの、ライナはもう少し寝させてくれるよう要求する。
そんなところで、ミルクが部屋にやってきてしまう。
彼女には、ライナとフェリスの様子が新婚のものに見えたのであろう。

「不潔よライナ!」
勝手すぎる言い分だ……w

「私だって、初めは抵抗したのだぞ。しかし、超絶変態マスターであるライナは……」
フェリスが火に油を注げば、ライナの身に降りかかる災難は想像に易いというもの。

「では、先に行っているぞ」
フェリスがそう言い窓から部屋を出て行ったところで……

「浮気者ーーー!!」

部屋からは激しい光が放たれる。
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「今日も絶好のだんご日和だな」

ただ、空から降ってくるライナには注意しましょう。



ローランド城
「ずいぶん、ここが気に入ったようだな」

シオンの部屋で快適に睡眠をするライナ。ここでは安眠妨害をするフェリスもいなければ、ベッドを破壊する押しかけ電撃娘もいない。実に快適なものだろう。

「そんなお前に、仕事を押し付けるのは忍びないんだが」
「じゃあ押し付けんなよ」
そういうわけにはいかない。

「お前とフェリスには、俺と一緒にエスタブールに行ってもらう」

シオンの周りにいくら護衛がいても、ライナ達には他の者では代えられない条件がある。

「お前たちが一番、信頼できるんだ」

断れば、王の職権濫用が待っているかもしれない。ともなれば、やはりライナに選択肢は残されていないか。

「あ、それから。お前から報告のあった、アルファ・スティグマの子供だが、エリス家に預かってもらったよ」

フェリスの実家であり、代々ローランド王を護ってきた剣の一族である。そこならば安心だろう。

「会ってきたらどうだ? それとも、俺の仕事を手伝っt」
「あそうそう! 俺ってばアルアに用があるんだった。そういうわけで、またな」
逃げ道を得たライナは、さっさと部屋を出て行ってしまう。

「さて、仕事するか……」

部屋に残されたシオンは伸びをする。
ライナも同じくあくびをしつつ、アルアたちのもとへ向かう。それを、ミランは曲がり角の陰から窺う……
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後半へ続く……


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