クリスマスイブ。輝日東高等学校創設祭が賑やかにおこなわれていた。
この日からちょうど1年前に失恋した純一は、この時期が苦手になっていた。楽しそうな雰囲気の中に入っていくことができず、この日も創設祭の会場を前にし、早々に立ち去ろうとしていた。
「寄ってかねぇのか? 大将」
そんな純一に声をかけたのは、梅原だった。
一緒にミスサンタコンテストを見るため純一が来るのをずっと待っていたと言う梅原だが、純一が未だクリスマスを辛いと感じているのを知ると無理に誘おうとはせず。寂しい独り者同士、梅原家で朝までゲーム大会&お宝本観賞会とことになる。
クリスマスケーキなんて洒落たものはなくていい。梅原さえいてくれれば……純一はそう思ったという。(嘘)
ちなみに、ミスサンタコンテストの優勝は森島先輩。さすがだ。
ファイアストーム。
ラブラブカップルがフォークダンスを踊る光景を見て、創設祭実行委員も絢辻さんは誓う。
「来年はきっと……」
朝。
もうすっかり冬になった中、純一は学校に向かって登校する。そんな純一のもとに梨穂子がやってきて創設祭に出るのかを訊いてくる。一応学校行事であるため、何も予定がないなら来るべきではあるだろう。梨穂子は茶道部に来たらサービスをすると言うものの、やはり純一はあまり乗り気になれないでいた。
あれから1年が経過し、再びクリスマスが近付いてきた。純一は1年前を思い出す――
「来年は頑張ろうぜぇ」
いつまでもこうしてはいられない。ゲーム大会をおこなった後、梅原は誓った。
「俺は必ず彼女を見つける! 来年一人で寂しいイブを過ごすことになっても、俺を恨むなよ」
そんな梅原に、純一も誓ったはずだった。
「その言葉、そっくり返してやるよ!」
クリスマス。
二人の男は笑い合った――
いつまでも苦い思い出を引きずっているわけにはいかない。去年は寂しいながらも梅原と素敵な時を過ごし、苦い記憶が少しずつ解消される方向に向かってもいるのだから……
梅原から勇気をもらった純一は、今年は創設祭に参加することに決める。
ホームルーム。
各クラスから創設祭実行委員を選ばなければならないため、高橋先生は立候補してくれる者がいないか呼びかける。しかし、誰も立候補しようとはしない。田中さんに至ってはうとうとして話も聞いていないだろうw
そんな中、一人の生徒が立ちあがる。
「私がやりましょうか」
絢辻さん。
彼女はクラス委員でもあるため、掛け持ちでハードになることが心配された。本人は大丈夫だと言うものの、高橋先生はもう一人実行委員を出すことを提案して、改めて皆に呼び掛けてみる。やはり誰も反応しないであろうと思われたところだったが……
「あの……」
そこで立ちあがったのは、田中さんが目を覚ましてしまうほど意外な人物であった。
「僕でよかったら……」
橘純一。
だって田中さんの前の席だもの。そりゃあ目を覚ますよw
純一のことをよく知る梅原と薫は特に意外に思い、休み時間に話を聞くことにする。
「まさか、絢辻さん狙いか?」
怪しい表情でそう訊いてくる梅原だが、純一はそれを否定。
「熱でもあるんじゃないの? あとは脈が弱くなってるとか」
薫のそれも否定。
純一はクリスマスを頑張ってみようとしたために立候補したのだという。いざとなったら気持ちが後ろ向きになるかもしれない。実行委員になれば否応なしに当日来なければならないため、そういったことはなくなるだろうと。
純一なりにクリスマスと向き合おうとした第一歩の形なのだろう。よく立候補したと言えるところだ。
実行委員となった純一に、絢辻さんが話しかけてくる。
クラス委員は然ることながら、去年も実行委員をやっている絢辻さんは非常に頼りになるとこだろう。素敵な笑顔も見せるし、純一としては不安は一切感じられぬところだろう……
夜。
純一は創設祭実行委員になったことを美也に話す。
今日の放課後早速会合があったとのことで、絢辻さんが実行委員長に選ばれたのだという。前回の実行委員長から直々に指名されたとあって、その人望の厚さには驚嘆の溜息がでてしまうところだろう。
「で、にぃには、その絢辻さんて人と仲良いの?」
にぃにの交友関係に興味があっての質問ではない。自分たちのクラスで何かやることになった時贔屓してもらえるのではないかという意図があってのものだった。
しかし、純一は特別仲が良いわけではないし、そもそも絢辻さんはそういう人ではない。
「じゃあにぃにでいいや」
無理。にぃににそんな力はございません。
たとえ可愛い妹だとしても、こればっかりは仕方がない……
創設祭実行委員本部に長蛇の列ができる。
様々な団体が催し物を申請する。その受付にいるのが純一と絢辻さんだった。
知り合いもやってきたりして一通りの申請を受け、一段落したところ。純一は絢辻さんに感心する。
いつの間にか申請書を作り上げそれを配っていたのだから、納得のところだろう。
これからおこなう作業に関しては、純一も協力するとことで、二人で資材倉庫へと向かう。
開けるのにはコツがいるその部屋に入ってみる。
ドアノブが壊れているため、中からでは開けられないというなんとも危険なその部屋には、創設祭で使う物で溢れていた。埃っぽくまさに倉庫らしい倉庫とことで、換気しようと窓を開けた純一であったが……
パタン。
何か不吉な音がした気がする。
とことで、入口の方を見てみると……
倉庫の扉がしっかりと閉まっていた。
「……ごめん」
ドンマイw
中から開けてみようとするも、やはり開かず。
窓から出るのも無理とことで溜息が出てしまうところであったが、やはり絢辻さんは冷静。ここに来るのは他の実行委員にも知らせてきたのだからその内誰かが来ると言う。
「もし誰も来なくてここに泊まることになっても……橘君が守ってくれるでしょ?」
ドキりんこ。
純一は、絢辻さんが実行委員に立候補した理由を問う。それに対し絢辻さんは、皆のお手伝いをできることが素敵だといった答えを返してくる。
純一はどうか。彼は、自分を変える第一歩だと言い素敵さをアピールする。
そして一般的な話題へ……
夕方。
この倉庫での仕事は終えたものの、倉庫から出る術は見出せないでいた。そんなところで、資材倉庫へとやってきた美也の声が聞こえてくる。ドア越しに開けるコツを教え、何とか助かることに……
「どうしてこんなところにいるの? かくれんぼ?」
まさか。美也じゃあるまいしw
目的であるウサギとサメの着ぐるみを借りた美也と紗江は、純一と絢辻さんにお礼を言って部屋から出ていく。ご丁寧にきっちりと閉めてwww
すぐさま再び救出してもらって帰路へ。
絢辻さんと一緒に帰っているところで、美しい女性が話しかけてくる。
その女性は、絢辻さんの姉の絢辻縁さんだという。絢辻さんに似てとても美しいお方だ……
絢辻さんは何故か縁さんから視線を逸らす。どこか不機嫌な気も感じられるが、縁さんはそれに気付きもしないようで優しげに話しかけてくる。
用事を思い出したと言い縁さんとどこかに行ってしまった絢辻さんを見送り、純一は一人帰る……
後日。
創設祭実行委員本部に、様々な団体からクレームや注文の嵐が。さらに、パンフレッドの印刷部数を聞かれるも、それらは純一一人では対処しかねるところ。
絢辻さんじゃないと手に負えないとことで、純一は絢辻さんがいるはずのプールへとやってくる。
響や田中さんの水泳の補習を代理として面倒見ているという絢辻さん。田中さんが痛がろうとしっかりと準備運動をさせるあたり、さすがな部分を感じる。
絢辻さんにヘルプを申し込み、補習が終わったらすぐに手伝ってもらうようにする。
それを終えたところで純一はもうここには用はないはずなのだが……
「それにしても……」
「三人ともピチピチしてるわね~」
「そ、そうですね」
「三人揃うと、相乗効果でさらに、こう……何て言うかたまらないわね」
「は、はい……って、え、ええ!? も、森島先輩!?」
若いって素晴らしい。その魅力に抗えないのを理解している森島先輩もまた素晴らしい^^
純一は慌ててその場を去るものの、森島先輩は一人でじっくり観賞しようとする。しかし、やはり彼女の前には響が立ちはだかる。平和な光景だ……
夕方。
苦労しながら仕事を進める純一は、教室で手帳が落ちてるのを発見する。どこかに名前が書いてあれば誰のものかわかっていいのだが……
水泳を終えた絢辻さんは、自分の荷物を確認していた。そして、そこにあるべきものがないことに気付く……
外見では誰のものかわからない手帳を開いてみると、そこには予定がぎっしり。それも綺麗な字で書かれていた。最後の方に名前が書いてあるだろうと思ってページをめくっていると……
そこに慌てた様子の絢辻さんがやってくる。
「それ。その手帳……」
水着のままでやってきた彼女は、純一が持つ手帳を指さす。
「もしかして、絢辻さんの? 良かった。今ここで拾ったところなんだ」
「そう……」
絢辻さんはゆっくりと純一に歩み寄ってくる。
「もしかして、中を見ちゃったりした?」
「あぁ、ごめん。どこかに名前があればって思って、少しだけ」
「そう……」
純一の返答を聞いた絢辻さんは純一に迫り――――
「見ちゃったんだ」
ヒィィィィィィィィィ!!
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