伝説の勇者の伝説 #021『ローランドの闇』前半

ルーナ兵の前に、得体のしれない兵士が立ちはだかる。
そいつらを斬り倒しても、そこに実体はなく――



ガスターク帝国 エディア邸
「ルーナの辺境、ローランドの国境付近の村に現れたそうです」
リーズはレファルに報告する。

「あいつら、とうとう禁忌の魔法にまで……」
あいつらというのはローランドのことだろう。

「ローランドのスパイ。あの女に話を聞いてみては?」
だからリーズはそう提案した。
彼が言うあの女というのはキファのこと。そのキファは今……
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ローランド城
ライナとフェリスは執務室前まで来ていた。
ライナが思い出すのは魔眼保持者たちのもとにいた一時。

『ライナさん。どうか、約束を……』

ラフラのためにも、ライナは決心したはず。

『もう逃げないって決めたんだ』

ライナは意を決して執務室の扉をノックしてみる。
しかし、返事がない。ただの扉のようだ……

「まだいないのではないか?」
「んなバカな! とっくに日は昇ってるっていうのに、あいつが仕事してないわけないだろ? っていうか、徹夜しててもおかしくないくらいだ」
とことで、ライナはその扉を開けてみることに。

「何だこれは!?」

そこでは、部屋中に書類の山が点在していた。

「やれやれ。随分遅いお帰りだな」

正面の机には、いつも通りに見えるシオンがいた。
ここにたくさん積まれている書類の山は誰かさんがいなかったために溜まってしまったものだという。ともなれば、どうなるかは目に見えているだろう。

「この書類の山が片付くまで、寝かせないからな。 ああ安心してくれ。フェリスにも仕事は用意しておいたから」

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冗談じゃねぇ。そう言うライナだが、その通り冗談じゃない。真面目な話だ。
だんごを食べる時間がなくなると言うフェリスともども、二人はシオンの言葉に従わずこの場を去ろうとする。しかし、その前に扉が閉められ鍵をかけられる。

「開かないよ」

特注品の鍵を使ったというその扉を前に、ライナとフェリスは武力行使に移ろうとする。
シオンに向けてフェリスは剣を抜こうとするものの、王の謁見にはそれは不要。見張りに渡してきてしまったため今はない。

「この暴君! 独裁者、悪魔!!」

「……良かった」
突然のシオンの安堵。
それは、彼がマゾだからというわけではない。

「二人とも帰ってきてくれて、本当に良かった」

心の底から“良かった”と感じている思いが伝わってくる。

「お帰り。ライナ」
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だからライナは調子を狂わされてしまったのであろう。先ほどまでの勢いを失ってしまう。

「そんなことより、早く扉を開けろ。私にはやらねばならない使命があるのだ」
ライナに通用しても、フェリスには通用しないが。

「ローランド国内での、だんご屋の味が変わっていないか、確認しに行くのだ」
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ただの食べ歩きではない。だんご神様に託された大事な使命。話を逸らすことでそう簡単に見失っていいものではないだろう。

『ライナ……。本当に…………帰ってきてしまったんだな……』

シオンは深い闇を抱えていた――――



闇の中。

ミルクのもとに少年の泣き声が聞こえてくる。
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ライナのものかと考えたミルクは、すぐさま泣いている少年のもとへと向かう。しかし、そこにいたのはライナではなく。

「シオン・アスタール様?」

少年は泣きながら言う。
「もう、僕は……死にたいんだ」

それは、かつてミルク自身が思っていたことでもある。この世界に絶望し、生きて苦しみを味わうのだったら死んだ方がマシであると思っていた。それをこの少年も同じように――


『フロワードのかけた術は解いてある。じきに目を覚ますはずだ』
『でも、私はカイウェルに……』
『いや、もう報告した。ライナ・リュートの件も、心配なさそうだ』
うっすらと声が聞こえる中、ミルクが目を覚ます。

「あー! ミルク隊長が起きましたー!」
「バカ! 隊長は病み上がりなんだぞ! 大声出すな!」

目を覚ましたミルクに気付いたムーとラッハが、元気よく彼女のもとに駆けよる。
枕元で騒ぐラッハをリーレが注意し……

「もう。すごーいお寝坊ですよ、お姫様」
ルークも傍にいる。

いつもの忌破り追撃部隊の仲間たちが、そこにはいた。
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ミルクは冷静にこれまでのことを思い返してみる。そして、自分がミランに遭遇したことを思い出す。どうして今の状況になっているのかわからないミルクに、ルークは優しく言葉をかける。

「もう…終わりましたから」

その話はここまで。
お腹が空いただろうとことで、今日はルークが隊長の好きなものつくってくれるという。

「はいはーい! 僕カレー!」
ムーの好きなものは訊いていない。

ミルクはまだ病み上がりとことで、お粥パーティーが提案される。
いつもと変わらない仲間たち。楽しそうに話す皆だが――
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夜。

ミルクは、皆が自分に何かを隠していることを感じていた。その根拠は、彼女が目を開ける前に聞いた会話にある。
リーレが言っていた“カイウェル”というのは、カルネ・カイウェルのことであろう。彼はシオンの側近であるため、ミルクも彼の存在は知っている。では、シオンの側近である彼の名前が出てくる話はどのようなものであったのか、それが問題になってくる。

『私がさらわれたことと、アスタール様と、何か関係があるのかな……?』

隠していた様子を考えると、ルークたちは教えてくれないだろう。では他に誰が事実を知っているか。
それを考え、ある人物に思い当たる。

『お父様』

カラード家は貴族だから、シオンに関することを知っていているのも自然なことだろう。
しかし……

ミルクはカラード家で味わった苦しみを思い出してしまう。

いくら痛くても、いくら許しを乞っても過剰な扱いをやめてはくれない。
いくら助けを求めても誰も聞いてはくれない。
そんな辛い日々。自分がカラード家で受けた酷い仕打ちを。

それでも、ミルクはカラード家へと向かう。
彼女は優しい中に強さを持っている。本当にいい娘だ……


カラード公爵邸
そこは、ミルクが見覚えのある様子とは大きく異なっていた。
建物はボロボロで、呼びかけても誰の返事もない。

「カラード公爵夫妻は、お亡くなりになりました」

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ひざをついて悲しむミルクに、ルークが語りかけてくる。
ローランドでは貴族が身寄りのない子供を買い戦士として育てる。実の子の代わりに戦場に行かせ功績を上げさせる。ミルクも、その被害者の一人であった。彼女がカラード家に買われてから、ここで幸せな思いを感じたことなど、そうはなかっただろう。

「そんな両親の死を、あなたは悲しむんですね」

「でも……それでも、私を……ここまで育ててくれた……」
本当に、ミルクは優しい娘だ。

ルークはこの事実を知っていて隠していた。ミルクを傷つけないようにと。
しかし、ミルクは真実を求める。

「今この国で、いったい何が起こっているの!?」

ローランドが抱える闇はいったい……


後半へ続く……




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