絢辻さん的には充分挽回可能な状況であったが、先日倒れたとあってそれが問題視されていた。高橋先生によると、創設祭の規模を小さくするという案が職員会議で話し合われたという。クリスマスツリーのイルミネーションをなくしたり、イベントの数を減らしたり。ガ○ダムもなくせばいいのだが……
「平気です!」
絢辻さんは強くそう言い、現状で通してみせることにする。
「屈辱よ。屈辱だわ」
絢辻さんは純一に愚痴をこぼす。
準備が遅れていることを注意されることは、彼女のプライドにしては相当の屈辱なのだろう。その想いがよく伝わってくる。
絶対に現状の予定で貫こうとはしているものの、時間が足りないのもまた事実。どうすべきか……
翌日。
純一は絢辻さんとともに昼食をとる。
絢辻さんは残り少ない時間でどうするか一晩考えてみたという。しかし、なかなかいい案は浮かばず。純一に意見を求めるが、彼は今それどころではなかった。
「だって、絢辻さんが僕のために、お弁当を作ってきてくれるなんて…嬉しくって」
それはそうだろう。実に羨ましいものだ。
「犬が芸をしたらご褒美をあげるものでしょ? これはその前払いよ」
「僕は犬ですか…」
お弁当を作ってくれると言うのなら、犬にだってなry
それよりもアイディア。純一的には人を増やすのが一番だと考えていたが、絢辻さんはその案を却下する。
「みっともないじゃないの。今更人手が足りませんでした。手伝ってください。なんて、私のプライドが許さないわ」
でも、このままでは間に合わない。
背に腹はかえられないとことでそれを実行させるべく、純一は“統率力”という言葉を巧みに使い絢辻さんのプライドを守りつつ皆に協力してもらうという案で通してもらうことにする。
まずはクラスメイトから協力を頼もうと決めたところで、二人はラブラブの食事をエンジョイする。そんな様子を3人のクラスメイトが見ており……
クラスメイトに創設祭の準備協力の是非を問う。
それに薫や梅原が協力を申し出、皆も彼女たちに次いで手を上げ、無事協力してもらうこととなる。
しかし、それを快く思っていない者もいた。彼女たちは二人がイチャイチャしていることを見ているため、そのせいで準備が遅れているのだと、勝手な憶測を話し皆を惑わそうとする。
そんな最悪のタイミングで純一たちは教室に戻ってくる。
「クリスマスツリーが中止になるって聞いたけど、本当?」
女生徒が二人に問いかけてくる。
彼女は嫌みを並べ、二人がイチャイチャしていることを指摘する。
それに対し、絢辻さんは仕事をしているだけだと言う。純一もイチャイチャを否定するものの、嫌みを言う女には勝てず。
「どうなの絢辻さん。なんとか言いなさいよ」
絢辻さんはうつむき、震え始める。
「やっば。もしかして泣かせちゃった?」
ごめん。そんなにぬるくないからw
「ッフフフ……ハハハハハ! アハハハハ! アハハハハハハ!!」
高笑い。
クラスメイトには一瞬何が起こったのか分からなかっただろう。
皆がポカーンとしている前で、絢辻さんは本性を露わにする。
「あーあ。バカバカしい。あなたたちの言ってることは創設祭に関係のないことばかりじゃない。何それ。もしかして嫉妬?」
少し怖くも感じるが、これが絢辻さん。
絢辻さんは裏表のない素敵な人なんだから。
「いるのよね~。あなたたちみたいに根も葉もない噂を鵜呑みにして文句ばかり言う人。何にもできないくせに他人を見下して優越感に浸るなんてくだらないわね。言い返したかったらどうぞ。でもあなたたちに何ができるの。何をやってきたの。何か一つでも私に勝てるところがある? 恥って言葉を知ってるなら、自分の人生を振り返ってからにしてよね」
何も言い返せない。それは絢辻さんの言うとおりだからだろう。
でも言いすぎw
放課後の神社。
絢辻さんは手帳を燃やしてしまう。
「私には、もう必要のないものだから」
今の彼女にはもっと大切なものがあり、それを純一に宣言する。
「あなたを私のものにします」
「はあ!?」
その言葉と態度から察するに勘違いをしてしまいそうなところだが、下僕にするという意味ではない。そもそもそれなら既になってるし。
「できれば、ずっと一緒にいたい。あなたが傍にいてくれれば充分……」
しかしながら、それを強制できないということはさすがの絢辻さんでもわかっていた。
「だから、私をあげる! その代わり、今あなたがいる日常を、私にちょうだい!」
実に素敵な告白だ。
大事なことでも二回は言わない。そんな彼女の告白に、純一は答える。
「僕で良ければ……喜んで」
その返答を受けた絢辻さんは、契約の証として純一とキスをする。
契約成立。それを終えた後の絢辻さんの鼻からは血が流れていた……
「絢辻さんでも興奮するんだね」
そんなことを言えば、もちろんビンタを喰らうというのに……
純一はドMなものだ。
翌日。
教室へとやってくるとやはり微妙な雰囲気だった。
体育。
用事があるからとりあえず十周走っとけと言われた男子陣。それに対し、女子陣はドッジボールをおこなっていた。
それを見て純一は絢辻さんのチームが劣勢であることを知る。しかし、正確に言えばそういうわけではない。最初から一人だけで戦わされているのだと知る。なんて幼稚なことをしているか……
純一は早く十周走り終えるべく、ペースを上げる。
女性陣の中でも、今の状況を好ましく思わない者がいた。
「私パス」
棚町薫。彼女は今の状況を変えるべく、絢辻さんサイドへとつくことにする。もちろん田中さんも一緒に。
「これで3人ね」
「いや、4人だよ」
(;*´Д`)ハァハァ状態の純一が女子の体育へと乱入してくる。なんて危険な男だ……w
「ちょっとぉ。どうしてあんたが女子のドッジボールに割り込むのよ!」
それはごもっともだ。
「滅茶苦茶息上がってるけど…」
田中さんも怯える……というわけではないだろうけどw
これ以上は絢辻さんいじめを続けられない。女たちはその場から去っていく……
純一GJというところだろう。
放課後。
順調に準備が進んでいたものの、クラスに向かってみると、梅原、薫、田中さんの3人しか残っていなかった。
少数精鋭で頑張ろう。とことで。5人で作業を始める。
夜。
遅くまで学校で準備を進めるという、ある意味で学園祭の醍醐味を味わった5人は帰路につく。
その際、絢辻さんが教室に忘れ物をしたとことでそれを取りに戻ることに。
「大丈夫。私は平気。まだ頑張れる……」
絢辻さんは一人でいいと言ったものの、作業を続けているのだろうと察した純一も教室へとやってくる。
今までは平気な様子を見せていた絢辻さんだが、そんなわけはない。心の奥では不安を感じていたことだろう。それが表に出てきたところで純一がやってきたのだから、ついつい安心しきっても仕方のないところ。彼女は純一の胸の温かさを感じる。
「ありがとう。もう大丈夫」
そんな彼女に、純一は改めて皆に頼んで手伝ってもらうことを提案する。
梅原たちが手伝ってはくれているものの、それだけでは手が足りないのは明白。足りなければ絢辻さん自身が徹夜でも何でもすると言うも……
「それでまた倒れたらどうするの!」
純一も黙ってはいられないだろう。
どちらにも譲れぬものがある。しかし、その中でも絢辻さんは頑ななもので、それがらしくないと純一は指摘する。
「らしくないって何!? あなたが私の何をわかってるの!? ねえ、何をわかってるって言うの!!」
わかってる。絢辻さんが創設祭に一生懸命だということが。
それを成功させたいからこそ、純一は皆に頼むことを提案していた。それがダメなら、イベントを減らすことも覚悟して。
そんな純一に、絢辻さんはビンタを喰らわせる。
「何で……何でわかってるのに、そんなこと言うのよ……」
そして走り去ってしまう……
翌日。
純一が学校に登校すると、教室にはいじめっ子と仲良く話す絢辻さんがいた。
どうなっているのか。薫に事情を聞くと、絢辻さんが頭を下げて先日のことを謝罪し協力を頼んだとのことだった。
その際には涙を流し、いじめっ子たちは彼女の想いを知る。それで協力することになったという。
嘘のようなホントの話。
絢辻さんは創設祭の準備を手伝ってくれる皆に感謝していた。
「私、このクラスになれて良かった」
そうまで言う絢辻さんを、純一はひと気のないところまで呼び出すことに。
「もしかして……また…キスとか?」
それも魅力的だが、そういう話ではない。昨日と今日の絢辻さんの変わりっぷりを、純一は気にしていた。
しかし、絢辻さんは昨日のことが記憶にないようだった。
「もしかして、あの子のことを言ってるのかな?」
「あの子?」
「意固地になって、一人で創設祭の準備をなんとか間に合わせようとしてたあの子。でも、もうあなたの知ってるあの子はいなくなっちゃったの」
(・_・)エッ..?
いったい何を言っているのか。どうなっているのか。
絢辻さんは裏表のない素敵な人のはずなのに……
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