あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。 01話『超平和バスターズ』

夏。

ガリガリ君を食べながら、じんたんこと宿海仁太は家でゲームをしていた。
今は夏休み……だとしても、それは正しい姿なのかどうか。家のすぐ外では学生カップルが仲睦まじく歩いていたのだからなおさらそう思うところだ。
……カップル爆発すればいいのに(´・ω・`)

じんたんも同様の考えを抱いていたか、恨めしさをゲームで晴らす。

「あれー? ねえ、これビルビルダー?」

とある少女がそう訊いてくる。
何気ない会話。しかしながら、じんたんは彼女の存在に気付いたところで目線を逸らし、ゲームを止めて食事を作りに行く。

『夏の獣は……相当に…獰猛だ』

インスタントの塩ラーメンを作るじんたんに、少女…めんまこと本間芽衣子も塩ラーメンを要求する。彼女としては卵を混ぜてほしかったところだがじんたんは混ぜず。
そんなところでじんたんの父がやってきて、彼にもラーメンを作ることに。めんまのは作らないくせに父親の分は作る。これではひいきであるとめんまが訴えるのも無理はないだろう。
しかし、悲しむめんまをよそに二人はラーメンを食べようとする。めんまはそんなじんたんの膝の上に座り、ラーメンを要求。お箸を探すめんまの動きに、じんたんはノックアウトw

そこで彼は過去を見る。

『あの頃の夏は――』



あの夏の日。

じんたんとめんまは、他の友人たちとともにとっても仲良く遊んでいた。
特にその頃のじんたんは、グループ内の中心的存在だった。そんな彼にめんまが話しかける。

「あのね……お願いがあるの」
画像



――じんたんは目覚める。
彼の胸の上ではめんまが気持ちよさそうに眠っていた。

『俺は病んでる。確実に……。これはきっと抱えまくったストレスと、抱えまくったトラウマが、夏の暑さのせいで形を…っ!』

彼の思考が途中で乱れたのはめんまが体勢を変えたため。よりじんたんに密着するようになったその体勢は彼には刺激が強すぎるもの。思春期の性衝動、侮ることなかれ。

「おはよぅ。じんたん」
めんまは実に可愛らしい。

「仮に……俺のストレスが具現化した存在として、お前がここにいるとしよう。だが……何で今更」
気になるのは、今更ということだけではない。

「成長した状態で現れた」
それも驚くべきこと。

めんま自身もその原因がわからないでいた。ただ、なんとなく言えることはある。

「多分、お願いを叶えてほしいんだと思うよ。めんま!」

それが何かもわからない。わかるのは、ただなんとなくということのみ。

『こいつは夏の獣。俺のストレス。俺のトラウマ』

「とりあえず、その願いってのを思い出せよ」
「そうそうそれね。みんなじゃなきゃ叶えられないお願いだった」
みんなというのは……

そんなところで呼び鈴が鳴る。
めんまはそれに出ようとするも、ここはじんたんが住んでいいる家。とことで、彼は玄関でめんまのことを必死で止める。
そんなところで扉が開く。

「何やってんの?」
画像
彼女はじんたんの方を冷たい目で見てそう言う。

「あなるだー!」

あなること安城鳴子にめんまが抱きつく。
「おい、落ち着け」
「落ち着けって…別に、焦っちゃいないけど」

言わずもがな、じんたんの言葉はめんまに対してのもの。
しかし、あなるはそれを自分に対するものだと思っていた。この状況では相応しくない言葉だと感じながらも。

「なんか、肩重い……」
「……あなる、めんまのこと、見えてない……の?」
返事は返って来ない。

あなるがここへ来たのは、先生に頼まれてた夏休みの宿題を届けるため。
夏休みはあと二日というところで届けに来るとは……鬼か(´・ω・`)
中身をやっておいてくれたなら別だけど……

「宿海と違って、いろいろと忙しいの」
「だったら、どっかに捨てりゃあいいだろこんなもん。どうせあんなアホ高もう行く気なんてねぇし」

じんたんがそう考えているのであればそれはそれでいいかもしれない。あなるには知る由もないだろう。
しかし、傍から見て言えることはある。

「あんたみっともないよ!」

事実。だからじんたんは何も言い返せず、この場の雰囲気は実に暗いものとなる。
めんまがフォローしようとするも言葉が出ず、あなるは去っていってしまう。

あなるはマニキュアの塗られた両手の爪を見つめる。それで何を思ったか、しばらくしてまた彼女は歩み始める。



「じんたんのアホ!」

あなるに一緒に願いを叶えるよう頼んでくれなかったことを、めんまは可愛く怒る。

「まず最初に行っておく。あいつを……あなるとか呼ぶな」
卑猥だものね(´・ω・`)

「あなるはあなるだよ」
なら仕方ない(´・ω・`)

「あいつはもう……あの頃のあなるじゃねぇんだよ」
そういう意味だったか。

「あの腐れビッチに頼んだって、手なんて貸してくれるわけ…」
あなるで腐れビッチとか救いようがないよ……(´;ω;`)

「とにかく、もうあいつは友達なんかじゃねぇんだから」
「やだよ!」

めんまはその大きな瞳にいっぱいの涙を浮かべる。

「あなるの悪口を言うじんたんなんて嫌いだよ!」
それがめんまの知っているはずのじんたんであるだろうから。

「もっかいあなるんとこ行こうよ。お願いしよ。じんたん!」
画像
その姿は過去のめんまと重なる。

折れたじんたんはめんまの言う願いを安城にしてみればわかると言う。
「安城だけじゃない…。あの頃とは、全部変わっちまったってこと」



夕方。
お帽子とメガネを装着し、じんたんはめんまとともに家を出る。

その姿を近所の人には奇異の目で見られる。
それほどまでに彼の引きこもり生活は定着してしまっているのか。

久しぶりの外。
めんまが以前見た町とは風景が変わっていることにはしゃぐ一方、じんたんは同中だった奴らとすれ違うのにも神経を使う。別に友達というわけでもないのだから気にもしていないのに。

良くも悪くも、時が経てばあらゆるものが変わってしまう。
「お前は、変わんないな」

めんまは以前と変わらない。
『当たり前か。ただの幻覚なんだし』

めんまは線路横の塀に登ってそこでバランスをとる。しかしそこでバランスを崩し――

それは悲しい記憶を甦らせる。
じんたんは必死に手を伸ばし、めんまを――


「じ……じんたん? ……大丈夫?」

……恥ずかしいけど大丈夫。
じんたんの伸ばした手はまったく意味をなさなかったものの、めんまが無事で何よりなとこだろう。

「宿海?」
そこへやってきたのは頭の良さそうな男女。彼らもまた、かつての友人たち。



あなるは複雑な感情を抱きベッド上で悶えていた。
何が彼女をそうまでさせるか。

「みっともないのは……あたしだ」

彼女が見つめた先。そこには、幼少の頃に撮った大切な写真が飾られていた。



じんたんが偶然出会った二人は夏期講習の帰りだという。
その制服はじんたんが着るはずだったもの。彼が目指していたところのもの。
めんまはそれよりもまず、二人の存在に目を輝かせる。
画像

「ゆきあつに……つるこだよぉ~!」

ゆきあつこと松雪集。つるここと鶴見知利子。
いくら時が経っても、彼らがゆきあつとつるこだとわかる何かがあるのだろう。
しかし、そんなことはじんたんには関係ない。

「行くぞ!」
ついついめんまに向けて言葉を発してしまう。
それはミステイク。

「あ、いや、めんまが…」
それもミス。
つるこは不安そうな目でちらりとゆきあつを見やる。

「めんまって何だよ……。お前、未だにそんなこと言ってんのか」

ゆきあつの反応は想像以上に淡泊なものだった。
じんたんが学校に行ってないことに言及し、その上本間芽衣子の名まで呼んだことに対し、頭に何か湧いたのではないかと言う。
今のじんたんではそれに反論する言葉は浮かばない。とことで、彼はその場から走り去っていく。

「ゆきあつのアホー!」
もちろん、めんまのその声は聞こえない。

「はーぁ。なーに熱くなってんの。 本間芽衣子のことになると人変わるのってさ、あんたも同じじゃない? 松雪君」
顔と頭が良くとも、彼には何かが欠けている。



走り疲れたじんたんはようやく立ち止まる。

「これで……よくわかったろ…!」

画像
皆変わってしまった。その中でも、一番変わったのはじんたんかもしれないが。

「俺のストレス。……そろそろ勘弁してくれよ。お前といると、やなこととか、やなこととか思い出して……イライラすんだよ」

そう言う彼の視線はめんまから外されている。
直視できないのが今のじんたん……か。

『あの頃は……あの頃の夏は…、こんなんじゃなかった』



あの夏の日。
じんたんは秘密基地へと向かい、そこにいる皆へ報告する。

「俺たち、超平和バスターズな!」
略して超バス……か。
そしてそのリーダーはもちろんじんたん。皆は自然と彼の後についていくのだから。
画像

それは“あの日”も例外ではなかった。

ひょんなことから、じんたんがめんまのことを好きだという話になった。
「えぇ!?」
画像

超平和バスターズに隠し事はなし。だからじんたんは答えなければならなかった。

「だ……誰がこんなブス!」

そう言ったらめんまはきっと泣く。じんたんはそう思っていた。
しかし、彼女は不器用にも微笑んで見せた。
それはじんたんにとって余計心苦しさを感じるところだっただろう。結局そこに居続けることができず、彼は何もフォローすることなく飛び出していった。

『明日謝りゃいいやって思った。……だけどその明日は――――永遠に来なかった』



めんまは本間家へと帰宅する。
そこには大きくなった弟がいて、両親も健在。しかし、大切な誰かが欠けていた。

母親はカレーをお供えする。それが“お姉ちゃん”の大好物だったからと。
「お姉ちゃん…抜けたとこあるから。自分が死んだこと……気付いてないかもしれないじゃない」

母親のその言葉に……

「知ってるよ」

答えたのはめんまだった。

「めんま……自分が死んじゃったことくらい…知ってるよ」
画像

写真の中の彼女は、本当に幸せそうに笑っていて……



じんたんは夜も塩ラーメンを作る。

『ものの見事に、平和をバスターしちまった俺たちは…………なんとなく…離れていって……』
そして今に至る。

じんたんはラーメンに入れる卵を割ろうとし、思い出す。かきたまを希望していためんまのことを。
じんたんは今もまた同じ過ちを繰り返そうとしている。だからか……

彼は家を飛び出す。
もう二度と後悔しないためにも。

『俺は……欲しかった』

めんまの行きそうな場所へと駆ける。

『ずっと…あの日の明日が……めんまに謝れる明日が……欲しかった』

じんたんの前に現れためんまがたとえ幻の存在だとしても、彼女が現れたことに意味はある。

『そうだ…。きっと……俺はめんまに謝るためにめんまを作り出した! だったら…このままじゃ……』

彼が向かったのは、皆とあの夏の日を共有した秘密基地。
もう長らく行ってなかったであろうそこは、今もなお秘密の基地として生きていた。

「あれ、じんたんじゃん……」
「ぽっぽ……」

最後の一人、久川鉄道。
彼は皆が見守る中でこの秘密基地に“超平和バスターズ”を刻んだことがある。それを思い出し、じんたんはその場所を見やる。

そこには、確かにその名が刻まれていた。
画像

『あの日……。ここで止まった時間が動き出す』




"あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。 01話『超平和バスターズ』"へのコメントを書く

お名前:
ホームページアドレス:
コメント: