花火が上がっても、彼女はそこにいた。
ゆきあつらが落ち着いたところで、聡志は皆に礼を言う。
「誘ってくれて、ありがとうございました」
頭を下げる彼に対して、あなるがしっかりと頭を下げる。こういう点からも、彼女が律儀でとても素敵だということがよくわかる。
「あと、姉ちゃんのために頑張ってくれて、ありがとうございました!」
こちらこそ。
聡志が感謝してくれるのであれば、たとえこのことがめんまをどうこうすることに繋がらなくとも、物凄く物凄く価値があったと言えるところだろう。
そんなところでクラクション。
本間家のご両親が来ていたことが発覚する。
『パパ……ママ……』
めんまにとってのパパとママ。
学さんもイレーヌさんも、今は純粋にじんたんたちに感謝していることだろう。
特にイレーヌさん。彼女の表情からは今から未来に向けられた希望のようなものが感じられる。この家族はきっと今後幸せな時間を過ごすことができるだろう。
めんまもそれがとても嬉しく、涙を浮かべる。
夜。
「残念だったねー。なんか、違うお願いだったのかもね」
まるで他人事のようにそう言うめんま。
じんたんはそんな彼女とともにカントリーマアム(バニラ)を食す。
「でもね、めんまちょっと良かったよ。だってテレビでね、最近ねめんまドドスコ好きだし!」
めんまにラブ注入したい。
『めんまが成仏しなかったのは…… 願いが、違ったからじゃなくて…… もしかして……』
風呂からあがったじんたんはめんまが可愛らしく寝ているのを見かける。
そんなところでゆきあつから電話。めんまが寝ていることを告げたならば、めんまには気付かれないように出てきてくれとのことだった。
そんなこんなで実正山定林寺へとやってきた真心じんたん。
そこでは皆が待っており、かなり暗い雰囲気を放っていた。
「どうして、めんまは成仏しなかったと思う?」
花火がめんまの本当の願いじゃなかったから。そうであればまだ良かったのかもしれないが……
「違うよ」
あなるは言う。
「ねぇ……あたしたち本当にめんまのこと考えてた? ちゃんとめんまのお願いが叶いますようにって。 あたしは……自分のことしか考えてなかった。 めんまのこと考え続けるじんたん……見てたくなかったから!」
だからめんまに成仏してほしいと思っていた。
「願いを叶えてあげたいんじゃなくて……自分のためにめんまを成仏させたかった…っ! そういうの神様に見抜かれてた…! だから……」
「俺だって同じだ。 俺は……めんまが好きだ。あの頃から時間が経ったって、ビックリするくらい、少しも変わらずに、好きだ!」
確かな宣言。
「だからこそ、宿海にだけめんまが見えるなんて…今のこの状態が耐えられなかった……」
めんまは目覚める。
辺りにはじんたんはいない。それに気付きつつ、自分の存在感が希薄になっていることも意識せざるをえない。
「ありゃ……」
「宿海だけのめんまになんて、絶対にしたくなかった。だったら、願いを叶えてやって、成仏してもらった方がいいって…!」
「最っ低……!」
「ああ! 最低だよ!」
「つるこも最低だよ! 本音隠すのやめなよ! ゆきあつに言いたいことある――!」
つるこはあなるの腕に掴みかかる。
「こないだと同じよ! あの日だって……あなたたち二人で示し合わせて、じんたんにめんまの気持ち確かめて…!」
え……?
じんたんの知らぬところで話は展開されていた。
「あたしはめんまのこと妬んでばっかで、でも、あんただって同じなんだから!」
「私は違う!」
「違わない! ゆきあつが好きだから、めんまが羨ましいからってめんまを成仏させようとしたくせに!」
「……え?」
ゆきあつの知らぬところでも、話は展開されていた。
いや、違う。これはゆきあつが気付かなかっただけと言えよう。
つるこはあなるの言うことをなおも否定する。
「だって最初っから、めんまになんて敵わないってわかってたもの」
同じ想いを抱いていたとしても、その全員が同じ行動をとるというわけではない。
つるこはあなると違い、叶わない夢を見ない。めんまにはなり得ないのだと悟っていた。
しかし、それで諦めたというわけではない。彼女はたとえめんまが成仏したとしても、その代わりがあなるだということは本気で思っていた。その代わりの立場で構わないと……あなるにならば敵う、その立場にならなり得るとも思っていた。
「私がずっと……昔からずっと羨ましかったのは、あなたよ、あなる!!」
子供の頃も今も変わらず、あなるはゆきあつの理解者。それが悔しくて……
「だから私、告げ口したの、めんまに。 あの日あなた達が、じんたんの気持ち確かめようとしてるって」
めんまは知っていた。
なのにめんまは何も言わなかった。
――あの夏の日。
「うーん……どうしようねー?」
「どうしようじゃないよ! じんたんのこと呼んじゃったんだよあの二人。めんまは内緒って言ったのに。 酷いでしょ。怒りに行こうよ!」
「うーん… めんまは、じんたんだけじゃなくて、みーんなが大好きだからなー」
つるこはしゃがみこんでしまう。
「やっぱり、敵わない…って思った」
つるこのメガネに、彼女の涙が落ちる。
「時間かかったけど、やっと私が…ゆきあつの理解者になれて…、もう…それだけで満足だったの…。 でも、やっぱり今も、ゆきあつの隣には……」
「つるこ……」
本当の想いは、それを抱いている本人にしかわからないもの。
伝える術は“言葉”。
そのことを強く実感する。
「めんまが成仏して、あなるがじんたんとくっついてくれれば……私がまた……っ そんな…、最低よ、私は…っ」
単純な想いではない。
でも行き着く先は、あなると同じ。
結局は自分の希望があったからこそ、めんまの成仏を望んだにすぎないということだ。
「やっぱり……無理だったんだ。 こんな気持ちで、めんま成仏させるのなんて」
「いいじゃねぇか…」
ここにきて初めて、ぽっぽが口を開く。
「どんな気持ちだって、何もしないより、よっぽどいいじゃねぇかよぉ!!」
ぽっぽは自分の左手で右手首を強く握りしめる。
「めんまの願い、叶えてやらなきゃ…成仏させてやらなきゃ…でなきゃ! めんまは……俺を許しちゃくれねぇんだよぉ!!」
ぽっぽはあの日見たのだと言う。
「めんまが……逝っちまうとこ」
怖かった。
ここにいるのが怖くて逃げだしたくて……でもどうしても出ていけなかった。
「高校行かずに世界に……遠くに行きゃぁ変わるって思ったんだよ! でも!! ……戻ってきちまうんだよ、あの場所に!」
皆の、秘密基地に。
「頼むから! お前らめんまを成仏させてやってくれよ!」
自分勝手なのは百も承知。
でも、だからといってそのままにしておくことなんてできない。
「笑ってない……目の前でどんどん逝っちまう、遠くなっちまうめんまが……離れないんだいよぉ!!」
ぽっぽの叫びを合図に、あなるとつるこも堰を切ったように泣きじゃくる。
ゆきあつだって、心震わせながら静かに涙を流す。
『俺だけじゃなかった……。 めんまの成仏に、自分勝手な気持ち持って……。 めんまの願いを真剣に考えてやれなくて……』
だからじんたんはめんまに謝る。
『めんま……ごめんな……。 ごめんな……』
宿海家。
「もーいーかーい……まーだだよー……」
めんまがぼんやりと過ごしているところへ、篤が帰ってくる。
じんたんがいないことに残念がりながら、彼は塔子にただいまを告げる。
「昼間ね、仁太が超平和バスターズのみんなと一緒にいたよ。最近の仁太、前よりすっごく元気になったんだよ」
そう報告し、彼はお風呂へと向かう。
「じーんたんのー最近はー……」
「謝る!」
「……え?(´・ω・`)」
そう決意したのはあなるだった。
「じんたんなんかもうどうでもいい! めんまにちゃんと謝って、そんで……」
じんたんは驚愕していた。
それは何もあなるの言葉を受けたからじゃない。
彼女を見て……
「睫毛……二つある…!」
こんな時になんてことを……。
いや、こんな時だからこそ、そのギャップあることは笑えてしまう。
ゆきあつは泣きながらも、笑いを堪えるのに必死だった。
つるこはメガネで確認。
「やっぱ。 あなる目元変わったって思ったのよね」
「そんなもさもさ…毛増やさなくてもいいんじゃね、あなる?」
「あなるはそのまんまでいいよ」
充分すぎるほどに魅力的なのだから。
「もうありがとう! でもあなるあなる言うなー!」
そう言えば……
「みんな、あだ名に戻ってんな」
気付かぬうちに、ごく自然と。
同様に、笑いも自然とこみあげてくる。
あっははははは(*^ω^*)
「ゆきあつの言った通りなんだ」
じんたんは正直な思いを吐露する。
「俺どこかで、めんまが俺だけに見えること、嬉しかった。 でも…めんまは違うんだ」
成仏なんてしなけりゃいいとじんたんは思っていた。
しかし、めんまは違った。じんたんだけとでなく、皆と喋りたいって。
「だから成仏して生まれ変わりたいって」
そんなめんまのことを思うと、またも涙がこみ上げそうになるところ。
「めんまの願い、ちゃんと叶えよう」
ゆきあつが言う。
「めんまも呼んで、日記使って、ちゃんと話してさ。 めんまと一緒に……もう一度!」
「うん! そうだよ。めんま抜きで話したって意味ない! だって」
「私たち6人で…超平和バスターズなんだものね」
その通り。
ならばこそ、ゆきあつはじんたんの肩に手をまわす。
「頼むぜ…。 リーダー」
真心のこもった言葉。
それに、じんたんも真心で返す。
「すぐめんま連れてくる。秘密基地で集合な!」
じんたんはすぐに自宅へと駆けていく。
『めんま…。 やっと俺たち、動き出せた気がするんだ。 お前の願いを叶えて、 今度こそ、 ちゃんと胸張って、 お前を――!』
「めんま!」
めんまはそこにいた。
しかし、彼女は明らかに弱っているのが見て取れた。
「おかえりぃ……」
後半へ続く……
"あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。 11話『あの夏に咲く花』 前半"へのコメントを書く