いつか天魔の黒ウサギ 01話『900秒の放課後 <前篇>』

それは遠い昔の記憶。

「ねえ。 そろそろ……しよ?」

少女は言う。

「大丈夫。 痛くしないから」

血を吸うわけではない。
「入れるのよ。毒を」

そう。
《毒》。

「私の毒をあなたに入れる。 あなたが決して私から離れられなくなるようにね」

だけどそれは初めてのこと。
少年はやや不安げな表情を見せるが、少女はやはり安心させるような優しい声音で言う。

「大丈夫。 痛くしないから」

そして少年の首筋にカプリ。
それはやはり少し痛かった。その微かな痛みとともに、《毒》が流れ込んできていることがわかる。

「はい、終わり。 これであなたは私から離れられない。生きる時も、死ぬ時もずっと一緒。その覚悟はできてる?」
「…覚悟なんて、できてないよ」

それが当然。
でももう《毒》はかかったのだ。

「だからあなたは私のしもべ。私の護衛。私の、愛しい人よ。 愛してるわ、大兎」

その言葉に、少年……大兎は答えねばならない。
彼が愛してると言うことで魔術が完成するのだから。
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嫌いじゃない。好き。

「僕も……僕も君を愛してるよ、ヒメア」

その瞬間。
世界と、大兎の体内を構築している何もかもが変わった。
《毒》がかかったのだ。

「愛してるわ。大兎」

そして、大兎の物語は始まった。はずだったのに――――




――大兎は目覚める。
目の前には幼馴染の時雨遥がいた。

「ホームルームとっくに終わっちゃったよぉ?」
ふむぅ(´・ω・`)

大兎は5時間目からずっと寝ており、気付けば放課後。だらしなく寝過ぎて、唇の端には涎が……
遥はそれを指で拭う。
(*´・ω・`*)

「遥!? お前、何すんの!?」

涎がついていたのはわかるが、まさかそれを拭ってくれるだなんて……しかも皆がいる前で堂々と。
でも皆はそれを温かく見守る。嫉妬の感情を向ける余地がないほど、二人のラブラブ具合はバレバレだったということだろう。
でもまだそういう関係じゃないからと大兎は言うが……まあそんな細かいこたぁどうだっていいんだよ(´・ω・`)

あんなにも寝てたのに、大兎はまだあくびをする。
ここのところずっと同じ夢を見ている。そのせいだろうか、夢に誘われるように眠気が襲ってくるのは。
大兎は夢の話を遥にする。

「ガキんちょの俺が、誰か女の子に告られてるの。愛してるわー大兎…って」

それが大兎のよく見る夢。
遥はそれを笑ってしまう。
笑わないと約束したのに(´・ω・`)

それを見るようになったのは何年前からか。

「あれってさぁもしかして……遥?」
「えっ!?」
ドキりんこ。

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「そ、そんなのないよ。私、まだ大兎に…その、告白なんて…してないし」

まだ。
二人はイチャイチャラブラブ……


生徒会長の紅月光。
彼の周りに女子生徒が群がる。

「邪魔だ雑魚。俺の視界に入るな」

ひどく冷たい。
けどそれが逆に魅力的(*´ω`*)

月光の後について歩く少女は、邪魔な女子生徒らをぶっ飛ばしちゃっていいかと月光に訊く。

「余計なマネはするなクズ」
「あたしクズじゃないもーん!」

月光様ー! お仕事頑張ってくださーい!
ボクも言ってみた。それだけ(´・ω・`)

学業優秀、スポーツ万能、女子にモテモテ。高校デビュー早々生徒会長に就任したスーパーマン、紅月光様のお通りは実に凄いものだ。
大兎はそれを少なからず羨む。そりゃあまったくモテたくないかと言ったらそれは嘘になるわけなのだから、ごく自然な考えだろう。でも大兎は自分がスーパーマンではないとわかっているから、あんな風にモテるのは無理だと理解している。

「遥だって、付き合うならああいう奴の方がいいだろ?」
「さてさてー。それはどうでしょうー」

意味深な言葉を放ち、笑顔を浮かべる。

『実際可愛いんだよな、遥って』
なのに、なんだろう……

『大兎――!』

またあの女の子の声が聞こえてくる。
大兎のことをしもべと言い、護衛と言い、愛しい人だと言ったあの少女の声が。

振り返れば奴がいる。月光が大兎の方を見つめていた。
すぐに彼は踵を返し生徒会室へと向かうが……

「ねえ遥。あいつ今、俺のこと見てた?」
「紅くん? 大兎の勘違いじゃない?」

すごくガン見されてた気がするが……勘違いか。ならいいや(´・ω・`)

月光は平々凡々な大兎とは正反対。だけど大兎は平凡なんかじゃないよと遥が言ってくれる。
平凡だよ。
違うって。
違わない。

「じゃあ、じゃあさ。平凡でいいじゃんっていうのはどう?」
む?

「毎日平和で笑ってられたら、それが一番だよ」

確かにその通りかもしれない。
今しかないこの時間。それを笑顔で過ごせるのは、どんなに素敵なことだろう。
遥の笑顔を見ると、余計そう思える。


15:55。
遥は今日テニス部のミーティングがあったのだと思い出す。

「ごめん大兎。終わるまで待っててくれる?」
「やーなこった」
「えー。薄情者。一緒に帰ろうよ~」

まあたまには個別に帰る日があっても問題ないだろう。
とことで、遥は部活へと急ぎ、大兎は帰路へとつく。

別れ際に、平凡もいいかもと明確な答えを返した大兎は、帰り道で空手道場を見上げる。
大兎はかつて空手をやっており、努力に見合うそれなりの結果をおさめていた。しかし……腿の裏の腱を切ってしまい、空手を続けることを断念せざるを得なくなってしまった。

『大丈夫だよ、大兎』

遥はいつでも横で笑っていてくれた。
だからかもしれない。平々凡々な人生もまたいいのだと、大兎が思えたのは。
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でもそれが彼の心の全てを占めているわけではない。かつて空手をやっていた頃のように、平凡ではなく上を目指すような気持ちが、心のどこかにあるのだろう。

『そろそろ何かしないとなぁ……』

空手の道が閉ざされても、また何か別の高みへ……



生徒会室。

「キスしてよ!」

少女……安藤美雷はお尻をふりふりして月光にキスをせがむ。

「黙れ」

月光は書類に目を通すのに夢中。美雷の相手などしている暇はない。
キスをしないと死んでしまうと訴える美雷は何故か壁を押さえつけており……そこから、妙なものが飛び出してくる。
美雷の股下から飛び出してきたそれは、美雷だけでは対処しきれない。
死ぬ死ぬ訴える彼女のうるささに我慢ならなかったか、月光は仕方なしに腰を上げる。

「黙れ雑魚」

どこからか取り出した剣を、美雷が押さえつける壁に突き刺す。

「祓え。凶剣-スペル・エラー-」

するとあっという間。壁から出ていた謎の物体は消滅する。

「キスなしではこの程度の相手も倒せないのか。雑魚が」
「あたし雑魚じゃないもーん!」
「じゃあうるさい雑魚だ」
そんな二人(´・ω・`)

のどが渇いた美雷はドクターシナモンを買いに行くことに。月光はコーラ。とことで、月光が作り出した異空の通路を通り、美雷は買い出しへと向かう。

「最悪だな」
月光は一人呟く。

「本当に最悪だ、この筋書きは」

彼が目を通した書類。それは……

“最古の魔術師サイトヒメア 犠者クロガネタイト そして紅月光について”

クソ筋書きだった。



大兎は平凡な帰路についていた。
その途中、先ほど月光と一緒にいた少女、安藤美雷を見かける。
おいしいけど人気のないドクターシナモンを自販機から購入してゴキゲンな彼女が横断歩道を渡ろうとし……そこに勢いよくトラックが突っ込んできているのに大兎はいち早く気付く。
運転手は居眠りをしている。美雷はそれに気付いていない。

「逃げろ!」

大兎は美雷を突き飛ばし、トラックのコースから外す。
しかし、自分の身を避けるにはどう考えても間に合わず……!

トラックに衝突し、視界が回る。

『俺、死ぬのか……? ごめん……遥……――』




「大…兎……」

少女は時を待っていた。

「まだかなぁ……? まだ、…来てくれない…のかなぁ…?」

彼女はずっと一人で寂しい思いを感じ続けていた。
それはどれだけ長い時間であっただろうか。

9年。
3285日。
78840時間。

その長い時を待ち続け、あともう5分だけ待ったら来てくれるだろうかと考える。

「私といると楽しいと言ってくれた大兎。 私も……大兎といると……すごく幸せだよ」

大兎だけは彼女を純粋な目で見ていて、純粋に楽しんでいたのだから。

「大兎、……会いたい」
そう願いながらも……

『大兎が今、幸せなら……忘れられても、いいや……』

そう思い、悲しい涙を流す。
その涙こそが正直な想い。

『今のは嘘! 忘れないで! 私を、忘れないで…大兎――』



「おーい、生きてるー?」

美雷の呼び声に反応し、大兎は目を開ける。
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大兎はとりあえず美雷が無事であったことに安堵し、丸見えの縞パンを見つめる。ちょっと視線を外すと自分の体が横たわっているが、今はそんなことはどうだっていい。再び縞パンに目を移し……って、(・_・)エッ..?

(つд∩)グシグシ

(´・ω・`)

(つд∩)グシグシ

……( ;゚Д゚)!?

「あれってまさか……俺!?」

その通り。大兎は今、生首状態であった。
その事実に気付き、今になって痛みが襲いかかってくる。それに悶えると同時に体は動きだし……それだけで十分すぎるほどに不思議だったわけだが、傷や服などがあっという間に再生してしまう。

「おーお前! 変形ロボットなのか!?」
美雷は目を輝かせるが、

「リアクションちげぇーよ!」

そのツッコミも、状況的には違う気がしないでもない(´・ω・`)

首無し状態で立ち上がった大兎を見たトラックの運ちゃんは、およそ人間とは思えない化物じみたそれに驚き、慌ててその場を去っていく。
つまりはひき逃げ。
それを目撃した女子高生たちは正義心からか興味本位からか写メを撮ろうとする。しかし、すぐにひき逃げよりも凄まじい事実があることに気付く。
首無し人間。それを目にしたらば、さすがの彼女たちも逃げ出してしまう。

これ以上混乱を広げるわけにはいかない。
そう判断した大兎は、すぐさま自分の頭を拾い、事故現場から離れようとする。

「バイバーイ不死身くーん」
バイバーイ(´・ω・`)ノシ

「とりあえず首……首乗っけて、」

するとやはりと言うべきか、大兎の首は何故か元通り繋がった。

「もう大丈夫、…って、んなわけねぇー!!」

大兎は叫びながら駆ける……


落ち着いたところで、自分の身を確認してみる。
何事もなかったように、首は繋がっているし怪我もしていない。それどころか、昔怪我をしてしまった腿裏の腱さえも再生しており、彼は全力で走ることができた。
いったい何がどうなっているのか。彼が混乱している最中――



『力が……力が戻ってる』

大兎が一度死んでくれた。少女はそれを悟る。

「消えろ」

今の彼女であれば、今まで自分を捕えていた力など微々たるものにすぎない。
己の空間を構成し、その地に足をつける。

「これでやっと完成する。900秒の魔術が」

だから彼女は大兎に願う。

「思い出して。私の名を呼んで。そしたら、やっと全ての力が戻る。 大好きだよ。大兎――」


その声は大兎のもとに届く。
今の声は夢の女の子の……いや違う。

「知ってる。俺はあの子を……ずっと前から……!」

その子の名は――

「ヒ…メ…ア……?」

そう。
サイトヒメア。

大兎が自分のことを思い出してくれた。
それを知ったヒメアは、彼がもうすぐ迎えに来てくれることに喜びを感じる。
そこで改めて自分の姿を確認してみると、今の自分は素っ裸。それも、大兎と会ったばかりの、あの頃と変わらない年齢の姿。

「えっと、今のが6歳の姿で、もう9年くらい経ってるから、15歳か」

ヒメアは今に相応しい姿へと変貌する。
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「大兎、可愛いって言ってくれるかな? てか、可愛いって言ってくれなかったら、殺すけど」

ヒメア可愛いよ。ぐへへ……(*´Д`)



月光の携帯が鳴る。
舌打ちをしてからその電話に出て、以外な展開を知る。



大兎は思い出した。
だからこそ、自分の最悪さを思い知った。
何年も何年もずっと、ヒメアが待ち続けているのだから。


過去。
ヒメアに《毒》をかけられたあの頃、大兎はヒメアに絶対忘れないと約束した。必ずヒメアを助けに行くと。
だけど、大兎は今の今までその約束を忘れていたから……

「バカヤロー!!」

車に撥ねられても関係ない。ヒメアがくれた力によって、すぐに回復するのだから。
とにかく1秒でも早く。約束の場所へと向かって、大兎は駆ける。

『ヒメア。約束した。絶対に離れない。ヒメアを必ず守るって…! あの公園…二人だけで遊んだ、あの公園で。 ヒメア……ヒメア!』



夜。
大兎はようやくやってくる。ヒメアと約束した、あの公園へ。

いつも不思議に人がいないのは、あの頃とまったく変わっていない。
ヒメアと初めて邂逅を果たしたブランコも、静かに揺れている。

「待てよ。俺、なんでヒメアがここで待ってるなんて思ったんだ……?」

でも。
そこで物陰から姿を現したのは、間違いなくヒメアだった。
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「遅い! 来るのが遅いぞ大兎!」
ヒメア……(´・ω・`)

「9年間……あと5分だけ待って、…来てくれなかったら絶対殺すって、……今も、今までもずっと……」

9年間ずっと。あと5分と思い続けていた。

「ごめん。俺約束したのに……!」

謝罪の言葉よりも。

「会いたかった。大兎……」

待たせてごめん。
だけどヒメアは……

「来てくれたから、許す」

そう言ってくれた。

そんなヒメアの胸の辺りから、刃が突き出る。
それは背後から刺されたことによるもので、そこでは紅月光が不敵な笑みを浮かべていた。

『いくつも複雑に絡み合った俺たちの運命――。全ての物語は、目的地に向かって動き始めていた――』


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